日本発イノベーションであるドコモの“絵文字”が終了し、世界規格の“Emoji”だけが残る理由
興味深いのは、競合他社が早々に独自絵文字から撤退していたことだ。KDDIは2012年にau/docomo共通絵文字に移行し、2017年頃にはGoogle絵文字への完全移行を完了。ソフトバンクもAndroid 7.0以降は標準絵文字に変更している。
そしてAppleはそもそもiPhoneで一貫してUnicode準拠のApple絵文字で統一していた。
結果として、2017年頃以降でキャリア独自絵文字を維持していたのは「Pixelを除くドコモのAndroid端末」のみ。絵文字の生みの親であるドコモが、最後まで独自路線にこだわり続けた――その執念は理解できるが、Apple・Googleが主導する国際標準化の流れに対し、既存技術への固執が「ガラパゴス化」を招いたのは否めない。
今回の終了について、ドコモ広報部は「グローバル標準であるGoogleが提供する絵文字(Noto Color Emoji)が広く普及し、ドコモ絵文字との混在によるお客さまの操作性の不便さを解消するため」と説明。2025年6月下旬以降、ドコモの新機種はGoogleの「Noto Color Emoji」やサムスン電子の絵文字に移行する。

絵文字は形を変えて生き続ける
これにより、日本のモバイル業界最後の「独自絵文字」が姿を消す。1999年から26年間続いた日本独自の絵文字文化は、完全にグローバル標準に統合される。
皮肉なことに、ドコモが独自路線から撤退する2025年の今、絵文字文化はかつてないほど繁栄している。前述の通り、Unicodeに登録された絵文字は3790種類に達している。2023年上半期のBrandwatch社調査では、日本はオンライン上で約5億2600万回の絵文字を使用し、世界で最も絵文字を使う国となった。
栗田穣崇氏自身も今回の終了について「役目を十分に果たしたというか、むしろ遅すぎるくらい」とコメントしている。1カ月弱で作成された176個の小さなピクトグラムが26年間も残り、世界の「Emoji」文化を生み出したことは、まぎれもない偉業だった。
技術の世界では、イノベーションを生み出すことと、それを持続させることは別の能力を必要とする。ドコモの事例は、その難しさを改めて教えてくれた。しかし同時に、たとえ形は変わっても、本当に価値のあるものは必ず残るということも示している。MoMAに収蔵されたあの小さな12×12ピクセルの絵文字たちのように。
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