台湾に来た中国人配偶者「陸配」がなぜ台湾の政治的問題として浮上したのか、その歴史と現政権の思惑、そして移民・人権問題(中)

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「はっきり言って、初期の陸配は経済的な要因で台湾に来ました。当時、台湾と中国の間には非常に大きな経済的な格差があった。台湾は韓国や香港、シンガポールとともに『アジアの四小龍』(4匹のドラゴン)と呼ばれるほどの経済成長を遂げ、中国に比べて収入が高いから多くの人が台湾に来たいと思っていました。たとえ結婚相手が社会的弱者の家庭だと知っていても『台湾は裕福なのだから、一生懸命に働いて家族を支えられればいい』と考えていたのです」
「しかし2008年以降、中国の経済がテイクオフします。両岸の経済的な格差がどんどん縮まっていく。初期の陸配は学歴が低い人が多く、せいぜい中学卒くらいでした。しかし2013年以降、陸配の平均学歴は大学以上です」

「今の陸配と以前の陸配は、まったく違います。そして以前は経済面が結婚の理由でしたが、今は恋愛結婚が主流です。学歴も高く仕事の能力も高い。そのため、台湾に来て定住しようと考える陸配はますます少なくなっています」

現在は累計で約38万人の陸配

台湾・移民署(出入国管理庁)の統計によると、現在は累計で約38万人の陸配がいる。そのうち台湾に長期的に住んでいる人は約22万人だ。残りは中国に住み、仕事などの理由で台湾に移住せず、たまに台湾にやってくるような人たちだ。

陸配にとって2008年は1つの転換点だった。馬英九政権時に中国との関係は改善する。それにともない、陸配の権利は拡大された。

身分証を申請するまでの期間は、台湾在住8年から6年に短縮された。身分証を獲得するまで就労権はなかったが、その前段階の居留証を獲得すれば仕事ができるようになった。また、陸配も公務員として就労できるようになった。

一方で、2008年には北京五輪が開催され、それ以降は中国経済の飛躍的な成長とともに、台湾にやってくる陸配がますます減ってきた。

民進党の蔡英文政権が発足した2016年以降、意外なことかもしれないが陸配は民進党を支持するようになる。それは、蔡英文政権は陸配が就労できる公務員の種類を馬英九時代より増やすなど、陸配に配慮した細かい制度改正を行ったためだ。

それまで、陸配は配偶者が死去すれば台湾を去らなければならなかったが、子どもが未成年ならとどまることができるようになった。

後編に続く

早田 健文 在台湾ジャーナリスト、『台湾通信』代表

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はやた・たけふみ / Takefumi Hayata

1958年生まれ。広島大学大学院地域研究研究科アジア研究専攻修了(国際学修士)、1984年に台湾大学歴史研究所留学。1991年~2013年、台湾の政治・経済情報誌『台湾通信』(日本語)を発行。台湾の対外放送「自由中国之声」日本語番組アナウンサー、「台湾国際放送」日本語番組パーソナリティーとして、台湾発のラジオ日本語放送の番組を制作。

現在、インターネットラジオ「台湾通信webradio」を主宰。NHKラジオ海外リポーターも務める。各種メディアに執筆している。医薬品、健康食品、化粧品の分野を中心に、日本と台湾とのビジネスの架け橋も務めている。

著書に『台湾人の本心』東洋経済新報社(1998年)。

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