"松下ウォッチャー"だけが知る、「社員1万人削減」を発表したパナソニック楠見CEOが終始無表情だった胸の内
2026年度末までに1万人(国内外で各5000人)を削減すると発表した、グループCEO(最高経営責任者)の楠見雄規氏は無表情だった。従業員数20万7548人、子会社数500社(いずれも連結、2025年3月31日現在)を背負う楠見氏の苦労は想像を絶する。パナソニックHDのCEOの守備範囲は人智を超えているのではないか。
大きなストレスがかかっていることだろう。ストレスの影響で感情を抑え込もうとしたり、疲労で表情を作る余裕がなくなっている可能性がある。また、防御的反応として、感情を表に出さないようにしているとも考えられる。とはいえ、ストレスに負けてはいられない。
「固定費構造に抜本的な改革を施さなければ、持続的な成長は難しい。今回の人員削減については『忸怩(じくじ)たる思い』があるが、企業の競争力強化のために必要な決断です」と、楠見氏は淡々と説明した。2026年度には2024年度比で1500億円以上の収益改善を行い、6000億円以上の調整後営業利益を目指す構造改革も淡々と進めていく計画だ。
楠見氏はパフォーマンスに長けた劇場型経営者ではなく、感情の表出を抑えている。そのせいか、頭脳明晰な合理主義者と見る向きも少なくない。そうであるからこそ、「忸怩たる思い」と表現したのだろう。他社の経営トップもよく使う聞き飽きた定型表現であるものの、本当の自分は単なる合理主義者ではないという思いが伝わってくる。
世間を刺激した楠見CEOの一言
だが、パナソニックHDの現状を見るにつけ、冷酷な合理主義者にならざるをえないのが楠見氏の胸の内だろう。「同業他社と比べて売上高販管費率が5%ほど高い。固定費構造に大きくメスを入れなければ、再び成長に転じることはできない」(楠見CEO)。
そのため、「限界利益を率で上げて、固定費を額で抑えると教え込まれてきた」パナソニックの伝統を「グループに再度根付かせたい。その施策の1つが人員抑制だ」と話した。
ところが、続いて述べた次の一言が世論を刺激した。
「人員に余裕がある状態では、生産性を高める創意工夫が起きない。人員は少し足りないくらいがちょうどよい。その中で生産性を上げる努力をして、人が成長する。人員に余裕がある会社は、成長の機会を奪う。社会から人材をお預かりしている会社としては、あってはならないことだ」
会見の席上、「余裕があったほうが創造的になれるのではないか」と問題提起型の質問をした新聞記者がいたが、楠見氏は「職種によるのではないですか」と苦笑した。パナソニックの内情も知らないくせに、と言いたげだった。
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