"松下ウォッチャー"だけが知る、「社員1万人削減」を発表したパナソニック楠見CEOが終始無表情だった胸の内

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今やパナソニックHDは、働かない人や愚痴ばかり言っている人はいるものの、福利厚生をはじめとする「サラリーマン(ビジネスパーソン)・インフラ」が整ったホワイト企業。事なく定年まで過ごせれば、家族が喜んでくれる安定した会社である。

だから、家庭を持ち、教育費がかかり、ローンを抱えている人であれば、「早期退職なんかに応じちゃだめよ」と、奥さんから釘を刺されていることだろう。同社を早期退職し、中小企業に転じた人は「辞めてみて大企業のありがたみがわかった」と後悔していた。これが、関西という平和で過ごしやすい環境では、なおさら安定志向、保守的思考に陥りやすい。

ソリューションを主力事業とするパナソニックコネクトの樋口泰行社長が「もう(パナソニックHDの本社がある大阪府の)門真にいてはだめ。門真発想では限界がある」と語り、2017年に東京へ本社を移転したのも、単に顧客が東京に集中しているという理由だけではない。パナソニックの良くも悪くも平和なカルチャーから脱皮しようとしたからだ。

楠見氏は1万人削減の発表で批判的報道があふれることを想定していた。「多くの社員が不安に思い、ご家族も心配するだろう。私は社員の理解を得るよう、丁寧に説明を続ける」と社員だけでなく、その家族もおもんばかる姿勢を強調した。この発言には、陳謝の意が込められていたはずだ。

「このままでは辞めるに辞められない」

今回の大規模人員削減の発表に伴い、楠見氏は2025年度の報酬を40%削減すると表明した。ちなみに、2024年3月期の報酬は2億5900万円。その40%だから1億0360万円減額され、1億5540万円となる(所得税率は45%)。

トヨタ自動車、日立製作所、ソニーグループのCEOは約6億円を手にしている。苦境に直面している日産自動車もしかり。ましてや、もう1桁多い報酬を得ている主要アメリカ企業のトップに比べれば、楠見氏の報酬はかわいいもの、といった声も聞かれる。

上には上がある。日本航空の稲盛和夫元会長や伊藤忠商事の丹羽宇一郎元社長は、報酬ゼロで改革に当たった。

パナソニックHDの場合は、黒字を出している中での経営改革ということもあり単純比較できないが、累積営業利益1.5兆円、自己資本利益率(ROE)10%以上、累積営業キャッシュフロー2兆円の目標を掲げた3カ年中期経営計画(2023年3月期~2025年3月期)で、達成できたのは累積営業キャッシュフローだけ。

ネット上では「目標未達、人員削減を繰り返している」と非難され、「辞めろコール」が起こる。記者会見では「責任を取り、辞任するお考えはないですか」と必ず質問される。

楠見氏は「俺は辞めたほうがいいのではないかと悩んだ」。だが、「このままでは辞めるに辞められない」と考え直した。課題を残したまま次世代に引き継げないと思ったからだ。

中編へ続く)

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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