学校は社会の縮図、「たった1人で課題に立ち向かう教員」に御上先生が示す問題解決の妙 【後編】定番「熱血教師」をアップデートの理由

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詩森 本来、ファシリテーターは結論を導いてはいけないもの。執筆にあたり、海外の授業を見たのですが、自由にランダムに生徒たちが話していて、ドラマよりもっとカオスです。一方、テレビドラマの場合、取り上げるテーマに関する視聴者の知識はゼロベースですから、ある程度例示して御上先生が導いていく必要がありました。その兼ね合いが難しかったですね。

──それでも、御上先生にはファシリテーションの参考にできるところがあるように思います。

詩森 御上先生が途中で質問を投げかけたり、吉岡里帆さんが演じる副担任の是枝先生が話に入ったりしながら、生徒が自分たちなりの結論に辿り着くというやり方は有効かもしれませんね。御上先生はスーパーマンだと思いますし、そうでないとドラマの主人公にはならないんです。

ただ、御上先生が生徒の言葉をいったん待って、「そうだね」と肯定してくれる。そこで生徒が感じるうれしさがあると思うのです。ほめられるのともまた違う、自分がそこにいることを肯定してもらえることが大事なのではないでしょうか。私は意識的に御上先生に「そうだね」というセリフを言わせたのですが、それがSNSでピックアップされたのはすごく象徴的だなと感じます。

寺田 御上先生は問いの投げかけ方が上手ですよね。学校の先生はどうしても、自分の「正解」に誘導するか、荒っぽく「どう思う?」と問いかけるかという両極端になりがち。ファシリテーションするうえでは「いかに良質の問いを投げかけるか」がとても大事なのだと思います。

詩森 ありがとうございます。そこが一番苦労したところかもしれません。執筆しながら私も物語の生徒と向き合っているので、「ここでどう問いかけるか」が浮かばないと書けないんです。

寺田 良質な問いは、徹底的に考えるから浮かぶのですね。

「文科省が悪い」で済ませる状況を変えるべき

───現在、学校現場では長時間労働や教員不足などさまざまな課題があります。その点についてはいかがですか?

詩森 制度の問題については、今回まったく書けていないですね。ドラマの舞台の隣徳学院は待遇がいいですし。これは公立校を舞台にしないと書けないなと。

「偏差値の高い子たちだから解決力が高いのだ」という声もありましたが、偏差値の高い学校が舞台だから面白かったわけではなくて、生徒1人ひとりと向き合って書いているからです。これまでの学園ドラマでは、問題を抱えた学校の生徒はすぐに「うるせえ!」と暴力を振るう、みたいに画一的に書かれがちでした。でも、1人ひとりがそれぞれ一生懸命生きているはずですから。

寺田 最終回で、北村一輝さん演じる古代理事長が記者会見に臨む前、御上先生と2人で話すシーンがありましたよね。このドラマのハイライトだと思いました。

詩森 北村さんはずっとドラマや台本について考えていらして、プロデューサーさん経由で「(御上と槙野に不正を暴かれる)料亭のシーンだけでは語りきれないものがあるよね」と言われまして。しかし、古代理事長の教育に対する思いを記者会見でヒロイックに話すのも違うと思ったので、御上先生と話す形になりました。

「社会も教育も倒すべき敵ではなく守るべきだ」というセリフには、私が教育について思っていることを反映できたと思っています。あのシーンによって、「御上先生」というドラマが完成したと思っています。「政治が悪い」「社会が悪い」ではなく、どう育てていくかをみんなで一緒に考えたいなと。

古代理事長を演じた北村一輝さん
(写真:©TBS)

寺田 多くの課題解決に向けた教育改革が進行しているものの、教育行政と学校現場には乖離があります。「“文科省が悪い”と言っておけばいい」という今の状況を何とかしなければ。文科省もまた、「われわれが悪者になっておけばいいんでしょ」という面がありますが、本質的ではないと思うのです。

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