ロスに捧ぐ「御上先生」の裏側、なぜあんなにもリアル?脚本家・詩森ろば×寺田拓真に聞く 【前編】「私なら違う」でも考えるきっかけに

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詩森 ええ。でも、映画「新聞記者」の時はあまり時間がなくて、プロデューサーが取材した内容を聞いた形でした。細かいところまで自分で調べきれなかったし、何でも行政官の責任になってしまっている気もしました。あの時は調べきれなかった、イメージの世界に寄ってしまったという反省があり、今回は時間をかけてリサーチしました。

寺田 松坂桃李さんが演じる序盤の御上先生の姿はとてもリアルでしたよ。何でも知っているかのように振る舞い、「これが官僚なので」と語る姿が鉄仮面みたいで(笑)。たくさんの方に話をお聞きになったのですか?

詩森 教員の方は10人くらいですね。TBSのコーディネートのほか、高校で非常勤講師をやっている友人や、その紹介で中学の先生にもお話を伺いしました。

官僚の方を含めるともっと多くの方に取材しましたが、もともと私は演劇で、沖縄問題を扱ったりしていて、取材で省庁要請に同行したりすることも多かったんです。政府交渉や省庁要請に同行した際は、「行政官の人って絶対に尻尾を出しちゃいけないんだろうな」「個としての気持ちを出したらやれない仕事なのだろうな」と思いながら担当者とのやりとりを見ていました。

寺田 ドラマでは6話あたりから御上先生の内面が見えてきますよね。私は文科省の中にいたので、役人が個々の思いと役所の方針の間で苦しむ姿を目にしてきました。

詩森 多くの方は、官僚にとっては政府の方針が絶対であり、その範囲内で何かを作らなければいけないことも知らないように思います。大変さを知らないからこそ、気楽に「行政官はしっかりしろよ」と言えるのでしょう。

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──先ほど詩森さんが映画「新聞記者」の時は自分で細かいところまで調べて書く時間がなかったとおっしゃっていましたが、「御上先生」は書き切れましたか?

詩森 そんなことはありません。もっと知りたいことはたくさんありました。自販機はどの辺にあるのかとか、飲み物を買うタイミングなら同僚と二人きりでしゃべれるのかなとか。そんなことでも作品に役立つんです。透明人間になれるなら文科省で1日座っていたいですね。ただ、取材しすぎてしまうと取材先に遠慮してしまう可能性もある。すると、視聴者よりも取材先の方が大事になってしまうこともあるから、そのあたりは気をつけています。

寺田 そうした中でこの作品にはどんな思いを盛り込んだのですか?

詩森 一番は、文科省の中に、「教育をよくしたい」と動いている人がいること。そして、御上さんや槙野さんのように実際に不正を正しに行くことはないにしても、そういう思いを持つ人を阻害しているものは何かということです。

文科省官僚の槙野を演じた岡田将生さん
(写真:©TBS)

執筆にあたり、とくに気をつけたのが「悪代官みたいな行政官はいない」ということ。これを伝えられるよう、頑張って書きました。同じように、教師も人間として書くように心がけました。

スケールが大きい話は、荒唐無稽だと人の心に響きません。そのため、現実に起こっていることをアレンジして、行政官が「実際にこういうことってあるよね」とちょっとドキッとするようなことを入れ込んでいます。

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