反旗を翻した姉に頭を痛めるフィリピン大統領、ドゥテルテ逮捕でマルコス一家にも深い亀裂
これに対して、ドゥテルテ前大統領は2024年1月、ボンボン氏を「麻薬中毒者」と呼び、次男であるダバオ市のセバスチャン・ドゥテルテ市長は大統領の辞任を要求した。
サラ氏も自身への攻撃をやめなければ、シニアの墓を掘り起こして遺骨を西フィリピン海(南シナ海)に投げ捨てるとアイミー氏に迫り、2024年11月には「私が殺されたら」としたうえで、ボンボン夫妻とロムアルデス議長を暗殺するよう依頼をしたと発言した。
下院は2025年2月5日、機密費の不正支出疑惑などに加え、この暗殺発言を取り上げてサラ氏を弾劾訴追した。上院が弾劾を可決すれば、次期大統領選の最有力候補であるサラ氏は出馬できなくなる。
ドゥテルテ・マルコス両陣営の対立が抜き差しならぬ状況になり、股裂きの状態に陥ったアイミー氏は、サラ氏を弾劾訴追した下院を批判し、ドゥテルテ家の暴走気味の発言に対してはほぼ沈黙を守っていた。そして前大統領の逮捕と移送により、ドゥテルテ陣営に加わるルビコン川を渡った。
マルコス家の中でどのような話し合いがなされてきたのか、そもそも話し合いなどないのか、外から伺うことはできない。少なくともドゥテルテ逮捕については、ボンボン夫妻やロムアルデス氏が情報を共有して決断を下す一方で、アイミー氏が蚊帳の外に置かれていたことは間違いない。
利発な姉・おっとりした弟
「政治より映画作りをしたい」とかつて私に語ったアイミー氏がクリエイティブ&エクゼクティブ・ディレクターとして制作にかかわった映画が物議を醸したのは、ボンボン氏が大統領に就任して約1カ月後のことだ。
2022年8月にフィリピン各地の映画館で一斉に公開された『メイド・イン・マラカニアン』(Maid in Malacañang)は、一家が国外に追放された1986年2月25日までの72時間をマルコス家の側から描いている。
危急存亡の時に宮殿を仕切ったのは、シニアでもイメルダ氏でも、ボンボン氏でもなくアイミー氏だったという筋書きだ。「メイド」というのは映画のなかでシニアがアイミー氏に「お前はマラカニアンに奉仕する最高のメイドだ」と称える場面からとっている。
映画を観た歴史家のアンベス・オカンポ氏は「大統領に同情した」と新聞のコラムに書いた。「ボンボンは全編にわたり軍服姿で、父親の関心と承認を求めて泣きわめく子供のように描かれていた」。
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