広末涼子逮捕の裏で噴出した医療従事者の「切実な訴え」長年耐え忍んだ患者からの暴力の実態
筆者自身も、これまでの医療機関での勤務で、患者から叩かれる、つねられる、腕を噛まれる、つばを吐かれるなどの攻撃的なハラスメント、故意に胸や臀部を触られるなどのセクハラ、家族から理不尽な言葉を浴びせられる精神的なハラスメントなど、多くの事象を経験し、その都度やり場のない憤りや感情を抱いてきました。
社会を見渡せば、暴力やセクハラを排除する動きへと変わってきています。しかしながら、医療現場だけが治外法権のように、その波から取り残されたかのような状況が続いているといえます。
日本看護協会「ハラスメントの実態調査」
看護職の職能団体である日本看護協会は、このようなハラスメントについての実態調査や取り組みの紹介などを行っています。
2019年に発表された調査報告書 (病院および有床診療所における看護実態調査報告書)では、1年間に患者や患者の家族、同じ勤務先の職員から受けた暴力・ハラスメントについてたずねていますが、その結果、スタッフ職(非管理職)の約22%が暴力・ハラスメントとして「身体的な攻撃」を受けており、そのうち約93%が患者によるものだという結果があります。
ほかにも、「性的な言動」を受けたことのあるスタッフ職は約77%(そのうち約75%が患者からによる)、「精神的な攻撃」を受けたことのあるスタッフ職は約40%(そのうち約45%が患者からによる)となっており、医療従事者はさまざまなハラスメントに直面している実態がわかります。
また、こうしたハラスメント・暴力はもはやすべての診療科で発生し、在宅医療・訪問看護の現場や介護関連の施設でも日常的に起こっています。
一般的に、患者が医療従事者に暴力を振るっても、よほどのことがない限り医療機関は警察に通報することはありません。
それは、待ち時間が長い、説明が十分でないといった病院側に考慮すべき事情がある、疾患などへの不安からイライラや怒りが生じている、認知症や精神的な疾患が背景にあって感情がコントロールできない、といった背景が存在するケースもあるからです。
今回、広末さんが逮捕されたのは、交通事故後の対応のため、その場に警察署員がいたからであり、もし彼らがいなければ彼女が逮捕された事実だけが明るみに出て、看護師への暴力の実態について報じられることはなかったでしょう。
実際に、これまで医療従事者――例えば、看護師が患者に暴力を振るったケースは大きく報道されたことはあっても、逆のケース、看護師が患者から暴力やハラスメントを受けたケースが報じられることはまれです。
「医療従事者なのだから、仕方がない」ですまされる問題ではないと、筆者は考えます。
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