「2度目のW杯切符」森保監督は何がスゴいのか? ベテランサッカー記者が見た"マネジメントの妙"
そこから2022年カタールW杯予選がスタート。序盤は大迫や原口元気(浦和レッズ)などロシア組への依存度が高かったが、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大で予選が1年後ろ倒しになると、指揮官も「彼らだけに頼っていてはいけない」と危機感を強めた様子だ。
それを色濃く感じさせたのが、2021年10月の最終予選・サウジアラビア戦(ジェッダ)を落としたとき。すでに最終予選初戦・オマーン戦(吹田)を0−1で落としていた日本は、序盤3戦で2敗という崖っぷちに立たされた。続くオーストラリア戦(埼玉)で勝ち点を落としたら、森保監督解任が現実味を帯びてくる――。それほど緊迫した状況だった。
そこで指揮官は代表発足時から絶大な信頼を寄せていた柴崎を外し、守田英正(スポルティング・リスボン)や田中碧(リーズ)を抜擢。基本布陣を4−2−3−1から4−3−3(4−1−4−1)へシフトするという大ナタを振るう。サウジアラビア戦で柴崎のバックパスが決勝点につながったこともあり、心理的なダメージも勘案してのことだろうが、これは苦渋の決断だったに違いない。

その大一番を田中碧の先制点と、サンフレッチェ広島時代の秘蔵っ子・浅野拓磨(マジョルカ)のオウンゴール誘発で何とか勝ち切ると、続く11月シリーズでは欧州移籍したばかりの三笘薫(ブライトン)をキーマンに指名。敵地・オマーン戦(マスカット)の後半からいきなり投入し、伊東純也(スタッド・ランス)の決勝弾をお膳立て。最大の危機を乗り切ることができた。
三笘はカタールW杯出場を決めた2022年3月のオーストラリア戦(シドニー)でも終盤から登場して2ゴールを叩き出す大仕事をやってのける。もちろん最終予選4ゴールの伊東純也の働きも目覚ましいものがあったが、田中碧や三笘、予選途中から守備陣に名を連ねた板倉滉(ボルシアMG)ら東京五輪世代が存在感を高めていったのは確かだ。
非情さとリスペクト、相反する2つの側面
この時点で「本大会は彼らを中心に戦っていく」と腹を決めたのだろう。最終的に森保監督は大迫と原口を本大会メンバーから外し、柴崎も帯同させたものの一度も試合に使わなかった。
かつて1998年フランスW杯の日本代表を率いた岡田武史監督(現FC今治会長)が、チームの功労者だった三浦知良(JFLアトレチコ鈴鹿)と北澤豪(解説者)を外して日本中を震撼させた一大事があったが、森保監督も同じようなドライな一面を持ち合わせていたということ。“腹心を切れる非情さ”がなければ、指揮官は成功できないとも言えるだろう。
この陣容で日本はドイツとスペインを撃破し、クロアチアを倒す一歩手前まで行った。「ベスト8入りして新しい景色を見る」という大目標に届かなかったものの、20代半ばのメンバーを有効活用しながら成果を出したことは評価に値する。それが森保監督続投の大きな要因になったのだ。
迎えた2023年3月。第2次体制が始動すると、指揮官の佇まいは微妙に変化していた。というのも、カタールW杯までは長年の盟友・横内昭展ヘッドコーチ(ジュビロ磐田前監督)とつねに話をしながら実際にピッチで指導することも多かった。だが、新体制では名波浩、齊藤俊秀、前田遼一の各コーチにトレーニングを任せ、自分は全体を統括するマネジャー的な役割を担うことになったのである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら