人口47人・限界集落で盛況する「峠の茶屋」。「あそこの灯が消えるとき、集落も終わる」地域の総合商社の”超多角化経営”が凄すぎた
ちなみに、長らく秋目唯一の宿だった「がんじん荘」だが、2023年に漁師の網元御殿だった近くの古民家「岩元家住宅主屋」が簡易宿泊所としてオープン。現在秋目には2件の宿がある。
しかし、そちらは素泊まり宿で周辺に夕飯を食べるところもないため、宿泊客は「がんじん荘」に夕食を食べにくることが多い。
関西や関東方面からの中高生の民泊受け入れなど、団体受け入れもすることがあるため、まとまった予約が入ると一気に宿の売り上げは上がる。ただし、一年中来るわけではなく、ばらつきが大きいそうだ。

・2本目の柱:釣り客の瀬渡し
しかし、コロナ禍では団体客の予約がなくなり、宿の運営は極めて大きな打撃を受けた。そんなときは釣り客の瀬渡しをしていたことが功を奏したという。瀬渡しは1人当たり5000円(税込)、釣り客を漁船に乗せて釣りをする瀬まで送り届け、数時間後にまた迎えにいく仕事だ。
宿の前に集まってもらい早朝6時半に出港。多いときは十数人を瀬に渡した後、14時ごろに迎えに行く。夏(6月~10月)の暑い時期は夜釣りの瀬渡しをする。

渡した先の瀬では、釣り客は釣りを楽しむほか、釣った魚を捌いたり、バーベキューをするなど、約7時間を思い思いの過ごし方で楽しむ。「海に向かって竿を出すだけでもいい。仕事、家、すべて忘れて心からリフレッシュできる場所」と釣り客は語る。
昼食は持参する人が多いが、ごくまれに「がんじん荘」で弁当をお願いする人も。お昼時になると船で瀬まで運びに行く。“海の上のウーバーイーツ”である。なんとも贅沢なデリバリーではないか。値段は600円。利益の見込める商売ではなく、常連の釣り客へのサービスのようなものだろう。

もともとは叔父の商売だったが…
瀬渡しはもともと同じ集落に住んでいた叔父がやっており、上塘さんは宿と飲食で日々忙しかったため瀬渡しまではやっていなかった。
「叔父が亡くなる前に、誰かおらんかなって探していたんですけど誰も見つからなくて。自分がするよって伝えたら『うん』って言ってくれたんで」
先代のときも含めて30年以上通っている常連釣り客もいる。取材中も何度か瀬渡しの予約電話がかかってきていた。しかし需要があるとはいえ、瀬渡しは、波の揺れと合わせて接岸するので、かなりの運転技術がいる仕事である。
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