実質賃金が低迷している場合、実質的な消費水準を維持するためには名目支出は多くしなければならない。そのような状況で黒字率が上昇しているということは、家計はそれだけ消費を切り詰めて貯蓄をしているということである。
筆者は、以前のコラム(新NISAで「貯蓄から投資へ」に「消費から投資」も?)で新NISAや円安リスクの高まりなどによって将来不安を真剣に考える家計が増えていると考え、投資するために消費を抑制するという「消費から投資へ」の動きが予想されると指摘した。
世論調査では、「103万円の壁」が引き上がった場合に貯蓄を増やしたいという回答も多くなっており、投資のために消費を抑制する「NISA貧乏」の状況は定着したように思われる。
手取りを増やせ=もっと貯蓄したい
ここで、家計の実収入の内訳をみると、実収入が増えている分だけほぼパラレルに黒字(貯蓄)が増えていることがわかる。実収入の増加ペースに消費支出がほとんどついてこられていないことは明らかである。
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なお、足元では税金や社会保険料が手取りを減らしており、それが個人消費を圧迫しているという指摘がある。むろん、直接税(所得税や住民税)や社会保険料が含まれる非消費支出は収入に比例する面があるため、消費支出に回せる分を圧迫していることは事実である。
とはいえ、黒字(貯蓄)の増え方の大きさを考慮すると、非消費支出が消費支出を圧迫しているとは言えない。家計は「もっと貯蓄をしたいから手取りを増やしてほしい」と訴えている可能性が高く、手取り増が個人消費を押し上げる効果は限定的だろう。
そもそも、足元では非消費支出はそれほど増えていない。期せずしてデフレの状況が終わり、インフレの状況になっても将来不安は消えず、名目賃金が増えても将来不安は消えなかった。実質賃金を継続的に増加させるには実質成長率を高める必要があるが、潜在成長率の低さを考えると容易ではない……という閉塞感が、政府への不満につながっていると考えられる。
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