ガイトナーの金融危機対応は正しかったのか リーマンショックの真相

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著者の一人称で展開される本書に多くの賛否が寄せられている。「最も信頼のおける本として、この先ずっと読み継がれるだろう」というウォーレン・バフェットのような好意的なものばかりではなく、ウォール・ストリートを救いモラル・ハザードを引き起こした男の言い訳であるという批判もある。

個々の真実性は検証されていくだろうが、本書が金融危機の全体像をエキサイティングなストーリーとして鳥瞰させてくれ、前代未聞の難題を前にしても諦めずに行動し続けた一人の実務家の伝記として多くの示唆を与えてくれることは間違いない。

左派からは「国民生活よりも金融機関を優先させた」、右派からは「国民の税金を無駄使いした」と、在任中つねに批判にさらされていたガイトナーの決意は、以下の言葉にあらわれている。

“リーマン後、私は、危機に取り組む努力を妨げるようなモラル・ハザードや政治的考慮への忍耐を、いっさい擲(なぐ)った。(中略)私たちはあらゆる手を尽くさなければならない。たとえ私たちが不評をこうむろうと、助けるに値しない人間や会社を助けることになろうと、やらなければならないのだ。”

葛藤と矛盾を抱える中で

大衆やマスコミから嫌われることをわかっていながら、家族にまで多くの心理的負担を強いながら、細分化された規制当局内の政治的駆け引きでがんじがらめの中で、正しいと信じる道を突き進むのはたやすいことではない。

複雑に絡みあった葛藤と矛盾を抱えながら、それでもガイトナーが前進を止めない気力を振り絞っていく過程はあまりに過酷で、ビル・ゲイツですら「ガイトナーの仕事に比べれば、マイクロソフトの経営はずっと易しいものだった」と表現するほどなのである。

ウォール街出身の財務長官が身内たちを優遇している、と批判され続けたガイトナーだが実はキャリアを通して公務員であり続け、金融機関に勤務したことすらなかった(財務長官退任後の現在は、PE投資会社の社長を務めている)。

「銀行家でも経済学者でも政治家でもなく、民主党員ですらなかった」というガイトナーを、未曾有の危機と対峙する財務長官にオバマ大統領が選んだのは、彼が危機対応のスペシャリストだったからだ。

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