横田:ああ、そうだったんですか。
栗山:そのとき、「思う通りにやりなさい」と励ましてくださったんですけれど、王さんの言葉で感動したことが2つありました。
1つは、ダイエーの監督に就任した初年、不振続きでファンが暴徒化し、監督や選手の乗るバスに生卵をぶつける事件が起きました。そのときに、王さんはファンの行為を怒るのではなくて、「これを見ろ。プロは勝たなきゃいけないんだ」と選手を諭したと伝え聞いていたんです。
王さんにお会いしたとき、それが本当かどうか確かめたくて質問をしました。すると王さんは首を縦に振って、「文句を言いたいくらい真剣に応援してくれる人たちがいないと、我々プロ野球は成り立たないんだ。そういう人たちに喜んでもらうために野球をやるんだ。それを忘れちゃいけない」とおっしゃいました。
もう1つ聞いたのは、「もしもう1回人生があるとしたら、王選手になりたいか、王監督になりたいか、どっちですか」ということです。868本もホームランを打っているので、僕は王さんが「選手」って答えると思っていました。そうしたら、「いや、ホームランを打つのもいいけどね、監督はたくさんの選手のためになれるんだよ」とおっしゃったんです。
僕はこの2つの言葉がすごく響いて、プロとして監督として責任をしっかり果たさなきゃと身が引き締まりました。
横田:素晴らしいお話です。これもまさに出逢いの妙味ですね。
私は栗山監督より3つ若いのですが、これまでを振り返ると、我が人生よき出逢いに恵まれたなとつくづく思います。少年時代に老師方との出逢いがあり、管長という立場になってからも、致知出版社とのご縁で五木寛之さんのような大作家と対談本を出させてもらったり、それから鍵山秀三郎先生、村上和雄先生、渡部昇一先生、鈴木秀子先生など、世の中にこういう素晴らしい方がいるんだなという方々とお目にかかりました。
自分自身は空っぽなんですけど、本当によき出逢いに恵まれ、その蓄積で他人様の前でお話をさせてもらって、もうこんな有り難いことはない。いつ棺桶の蓋が閉まっても、我が人生後悔なし。そう思っています。
栗山:僕も本当に同感で、野球の下手だった人間がいまだに野球をやれているのは、出逢いしかなかったなと思います。WBCの監督に選ばれたことも、日本代表が世界一を獲得できたことも、いろんな人との出逢い、ご縁が実っていった結果にほかなりません。
出逢いを生かすことこそ、運を拓く道
横田:いろいろな人を目の前に見て、その声を聞くというのは大事なことですね。
栗山:それがあるとないとでは全然違いますよね。