日本人は、知らないうちに保険に入っている 強制加入で給与のおよそ10%が天引きに

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社会保険制度が将来にわたり維持できるかどうかは、今後どれだけの税金を投入し続けられるかにかかっています。どこまで国家財政にその余裕があるかです。しかし現在の日本の国家財政の状況を見る限り、とても楽観的に考えることはできません。赤字国債を乱発しながらの自転車操業を続けていますが、借金頼みの財政運営はもう限界です。その借金によって支えられている日本の社会保険もまた危機的状況です。借金ができなくなれば、社会保険がこれまでの給付水準を維持できなくなることは自明です。

今後の社会保険がどうなるのか。そのシナリオは悲観的なものとならざるをえません。給付水準は引き下げられ、社会保険料は値上げされる。かたや大幅な増税がのしかかってくる。この三重苦が同時に実施される以外の選択肢は考えられません。みなさんの源泉徴収票の社会保険料と税金の欄に記載される金額は、これからどんどん増え続けることでしょう。

民間の保険に入る行為は「自助」にあたりますが、「共助」である社会保険との役割分担を冷静に考えてみましょう。そこに必要以上の保障の重複があれば、保険を見直すことで保険料負担を減らすことができるでしょう。税金や社会保険料は強制的に取られます。日本を脱出し、日本人をやめる以外に逃れる方法はありません。しかし、民間保険の見直しは自分でできることです。

「互助」という古くて新しい考え方

最近は、「自助」「共助」「公助」に加えて、新たに「互助」という考え方が出始めています。近隣の助け合いやボランティなどを指す概念です。「公助」「共助」そして「自助」のいずれもが行き詰ってしまった状況下で、それならば「互助」ではどうか、と消去法の選択肢として出てきた感があります。厚生労働省も、自助を基本としながら互助・共助・公助の順での取り組みが必要である、と「互助」を強調し始めています。

国の社会保障政策のつじつま合わせはともかくとして、ここで改めて家族、親族、友人、そして地域コミュニティでの助け合いをベースとした「互助」の役割と意義を考え直してみることはよいことでしょう。考えてみれば、人間は有史以来つい最近まで「自助」と「互助」だけで生き抜いてきたのです。「共助」や「公助」の仕組みが誕生したのは歴史が近代に入ったわずか数百年前からのことにすぎません。

家族、親族、友人との助け合い。今さらそんな時代錯誤の発想か、と笑われてしまいそうです。しかし「公助」「共助」に明るい将来像を描くことのできない今だからこそ、困った時に互いに助け合える、自分を取り巻く周囲の人たちの存在を改めて考え直してみることは意義あることです。

「自助」「互助」「共助」「公助」。この4つの仕組みそのものは、教科書上の概念にすぎません。しかし、これを自分の生活の安心、安全を守る視点で、わが身に引き付けて考えてみると、そこに新たな気づきがあるように思います。

橋爪 健人 保険を知り尽くした男

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はしづめたけと / Taketo Hashizume

1974年東北大学卒、1984年米国デューク大学修士。日本生命保険に入社後、ホールセール企画部門、米国留学、法人営業部門を経て米国日本生命副社長。帰国後、損保会社出向、ジャパン・アフィニティ(保険ブローカー会社)代表取締役を経て2004年独立。企業向け保険ビジネスのコンサルタントとして活動。著書に『日本人が保険で大損する仕組み』(日本経済新聞出版社)

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