千葉県北西部に位置する流山市は人口増加率が高く、住みたい街ランキングなどで常に上位にランクインする都市だ。保育園の数も増やしてきたことから子育て世代にも人気であるとメディアで取り上げられることも多い。「市政は経営」という理念を掲げる井崎義治市長は、全国に先駆けてマーケティング課を市役所内に設置するなど「流山市発展の立役者」として高い評価を得てきた。
2023年の市長選では6選を果たし、外から見ると順風満帆に映る井崎市長だが、足元の流山市における観光政策で苦戦を強いられている事実はあまり知られていない。地元には井崎市長が誇る「マーケティング力」を疑問視する向きがある。
千葉日報は2024年5月、流山市にある第3セクターの経営状況に関して、次のように報じた。
「流山市の観光振興のため市が筆頭株主となり2020年に設立した第3セクター『流山ツーリズムデザイン』(NTD)が経営不振で約4800万円の債務を抱え、社長が交代する事態となっている」
市長の肝煎りで設立された第3セクター・NTDが経営不振に陥り、社長の首がすげかえられていた。NTDはどういう趣旨で設立されたのか。少々遠回りになるが、同市の地域事情を振り返っておく。
つくばエクスプレスの恩恵
流山市を南北に流れる一級河川「江戸川」。鉄道や自動車道が整備される以前、東京湾につながる江戸川は大量消費地である江戸への船運ルートとして重宝され、流山の発展に貢献してきた。そんな歴史を反映するように、江戸川沿いに広がる地区「流山本町」には100年以上の歴史を持つ老舗が点在し、国や市の文化財に指定された土蔵造りの家屋や神社仏閣が現存している。
流山市内から東京都・秋葉原までを約20分で結ぶ「つくばエクスプレス」(TX)が2005年に開業し、同市の東部は都心までのアクセスが急激に向上した。だが、大規模な都市開発や子育て世代の移住による人口増によって全国で注目されるほどの発展を遂げた市の東部とは対照的に、流山本町は近年、高齢化と人口減に悩まされている。
歴史ある旧市街であるにもかかわらず、都心へ向かう鉄道は松戸市と流山市を結ぶ単線のローカル路線「流鉄流山線」があるだけ。駅前に大型ショッピングモールが建つTX沿線上に比べると、子育て世代にとっては「住みにくい地域」と見られてしまっている。
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