いつの間にか消えた「NTT法廃止論」、空転の裏側 政治に振り回された議論が浮き彫りにした難題
一時は法廃止にまで持ち込む勢いで話が進み、国内の通信政策に大きな転換点をもたらすとの見方もあった今回の議論。この1年で、竜頭蛇尾の経過をたどったのはなぜなのか。背景にあるのは、政治力学の変化だ。
当初、自民党の議論を主導したのは、「法廃止のウィル(意思)を持つ」(総務省幹部)とされる2人の大物政治家だった。元政調会長の萩生田光一氏と、特命委の前トップを務めた甘利明氏だ。
昨年夏ころに「完全民営化も検討すべき」と議論の口火を切った萩生田氏は、党派閥の裏金問題を受け、同年12月に政調会長を辞職。萩生田氏は特命委の会議に出席しているが、今年10月の衆院選では党の公認を得られず無所属出馬し、当選後も党所属議員の扱いを受けていないと報じられている。甘利氏は同衆院選で落選し、特命委トップを退いた。
NTT法の廃止をめぐっては、党内でも意見が割れていた。とくに旧郵政系議員からは慎重な意見が多く出ており、経産相経験者である萩生田、甘利の両氏との対立構図は「総経戦」とも揶揄された。そしてその情勢は、萩生田氏の失脚で大きく変化することとなった。
今春時点で単純な「廃止」論は後退
今春可決された改正NTT法の附則には、2025年の制度改正について、「NTT法の廃止を含め検討」との文言が盛り込まれ、単純な「廃止」論は後退した。自民党関係者によると、附則をめぐっては、当初政府側が「NTT法の改正または廃止」と自民党に提示、小林氏が「廃止を含め」に変更するよう提案し、甘利氏も賛同したという。ある政府関係者は「事実上、この時点で廃止の線はほぼなくなっていた」との見方を示す。
制度改正の議論が行われる表舞台となった総務省の有識者会議では、NTT法の規制緩和について、NTTの競合他社だけでなく、識者からも慎重な声が上がり、NTTは孤立していった。
政治情勢の急変により、議論のとりまとめに向けたスケジュールにも狂いが生じた。政府が翌年の通常国会に法案を提出する場合は、夏ころまでに有識者会議などで制度改正の方向性を定め、秋ころから法案策定に向けて内閣法制局と調整に入るのが一般的だ。今回の答申も当初は夏ころにまとめる予定で、有識者会議のスケジュールが組まれていた。
しかし同時期から、岸田文雄前首相の退陣表明、それに続く自民党総裁選、衆院解散総選挙と、政治情勢は激しく動いた。新たな体制が固まるまでに結論を出すのは困難だったとみられ、結果的に、答申案のとりまとめは年の瀬が迫った12月上旬にまでずれ込む事態になった。
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