軍政権の弾圧を生き抜くミャンマー医療者の過酷 来日した著名医師が日本の市民に訴えたこと
タイのメータオ・クリニックで長年にわたってミャンマーからの避難民の医療に携わるシンシアマウン氏は、同志社大学での講演でクーデター後に変化した避難民たちの状況を説明した。
「ミャンマーから逃れてきている人は、ここ数年と比べても目に見えて増えています。最近では大学教授や医師など専門的スキルを持った人が増えているのが印象的です。国内のCDM運動に関わり、逮捕や拷問など身の危険を感じてのことでしょう」
また、2024年から始まった徴兵制により、18歳~30代の若い人たちもどんどん国境を越えてきている。ミャンマー国内では徴兵をきっかけに軍への贈賄が横行。暴動も頻発し、自殺者も出たという報道もあった。
未来を担う若い人たちを戦争に参加させてまで内戦を続ける道義的意味はいったいどこにあるのか、改めて考えさせられた。
「医療に関しては、避難民の増加に伴って緊急性の高い患者や妊娠女性に対応しなければならないケースが増えています」(シンシアマウン氏)
メータオ・クリニック内では対処できないほど大きな負傷や症状の患者もいる。その場合はメーソットにある大きな病院に搬送する。
メンタル面での不調を訴える患者が急増
長い戦争のなかで特徴的なのが、メンタル面での不調を訴える患者の増加だという。
「ヤンゴン市内のデータですが、親や家族の殺害、家や学校の喪失などさまざまな要因で心のケアが必要な人の割合がクーデター前は受診患者全体の16%程度だったのに対して今は61%に跳ね上がっていると言われています。 しかしメンタルヘルスの患者に対して精神ケアをできる医師は患者10万人に対して1人しかいません」(シンシアマウン氏)
同氏はミャンマー国内の食料問題にも言及した。
「徴兵により多くの若者は生まれ故郷から逃げたり、祖国を離れているため、農村に残っているのは老人や子どもだけです。彼らだけでは田畑を維持することは困難です」
十分な食料が行き渡らないため、栄養失調に苦しむ子どもたちや、食べるものがない妊婦も増えているという。低体重児や乳児の死亡率も増加しているともいう。
国境を越えた医療支援が行き届かない地域もある。シンシアマウン氏は、ミャンマー北西部のチン州を例に挙げる。
戦闘が激化しているチン州では通信規制が敷かれているため、インターネット環境が極端に悪く、連絡する手段が少ない。また、軍に知られると医療者が危険にさらされるため、支援活動の実態を公にすることは困難だという。
「5歳未満の子どもたちは医療支援が受けられないだけでなく、適切な予防接種ができていない状況が予想されます。十分な避難所や水なども与えられず、マラリア、下痢、肺炎、栄養失調、さらに戦争で死亡するリスクもあります」
シンシアマウン氏は支援の届かないチン州の現状をこう憂えた。
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