真面目な親が陥る"闇バイト"の温床になる子育て 親は子供にとって「指示役」になってはいないか?
父親のかねての願いは、「いい大学を卒業して大企業に就職し、世界を股にかけて活躍してほしい」というものだ。父親自身の果たせなかった夢である。
彼は本当は大学に行きたいという強い希望があったが、家庭の金銭的事情により叶わず、高校を卒業して地方公務員となった。今のポジションは係長。大卒の職員に立場的に抜かれることが多く、「大学さえ出ていれば」と忸怩たる思いに駆られるのだった。
長男のトモヤには、自分のような思いをしてほしくない。とにかく、いい大学に行って、いい会社に入る。それがトモヤのためだと考えていた。
父親は何かにつけてトモヤに指示を出した。小学生の頃から、
「健康のために野菜中心の食生活を送りなさい」
「運動も必要だから、サッカーをやりなさい」
中学生になると、生活にあれこれ口出ししてコントロール。
「ゲームをしてもいいが、学習につながるものにしなさい」
「門限は確実に守りなさい」
「洋服はこれを着なさい」
さらに勉強面での指示は熱が入った。
「人一倍勉強しなさい」
「そろそろ遊ぶのはやめて受験に集中しなさい」
こんなふうに命令口調で指導するのが普通だった。
両親のもとで窮屈な生活をしいられていた
世間体にもうるさかった。目立つことをすると「社会からどう見られるか気にしなさい」と言う。小学生のトモヤが友だちとケンカをしたときは、とくに厳しく叱りつけた。「違うんだよ、あいつが先にぼくのことを」と言いかけたトモヤの言葉を無視し、相手の親に謝罪しに行った。
母親もこの方針に賛成している。「結婚相手は公務員がいい」と言われて育ってきたため、公務員である夫のことを尊敬しており、家庭内のさまざまな意思決定や教育方針は夫に従うのが正しい選択であると思っていた。夫に言われるがままに監視役を引き受けることも多く、指示に従っていないとトモヤを叱った。
そんな両親のもとでトモヤは窮屈な生活をしいられていた。とくに妹たちを見ると不満が募る。両親は明らかにトモヤには厳しく、妹たちには甘いのだ。
たとえば携帯がほしいと言っても、トモヤに対して父親はなかなか許してくれず、誓約書のようなものを書かされたが、妹たちはいとも簡単に手に入れた。
「なぜ自分だけがこんな思いをしなきゃならないんだ」
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