無人駅なのに駅員がいる「簡易委託駅」誕生秘話 「石破首相の父」提案きっかけ?鳥取から全国に
しかし委託先はなかなか見つからなかったため、鳥取県が「農協方式」を提案する。これは無人化される駅がある地域の農業協同組合(農協)に委託するというもので、国鉄と農協も県の提案を受け入れた。しかし労働組合との調整が難航し、実際に簡易委託が始まったのは10月15日から。まず国英駅と土師駅で簡易委託が始まり、残る4駅も順次、簡易委託駅に移行した。
この翌日の『日本海新聞』によると、国英駅の場合は農協が駅前に住む40代女性を専従職員として新規採用している。このころの鉄道業界は国鉄・私鉄問わず圧倒的な男社会。『日本海新聞』は簡易委託化初日の国英駅の様子について「通勤者や通学生は案外無関心な表情で開札口(原文ママ)を出ていたが、なかには窓越しにみる女性の“駅員さん”を何か不思議そうにみる人もあった」と報じている。
有名なあの駅も簡易委託
因美線への簡易委託駅の導入に先立つ1970年9月28日、国鉄は「乗車券簡易委託発売基準規程」という内規を制定している。国鉄は11枚分の乗車券を簡易委託の委託先に交付。このうち10枚分の収入を国鉄に納め、残り1枚分が販売手数料として委託先の収入になる。この場合の手数料率は約9.1%でタバコの手数料率とほぼ同じ。収入としては小さいものの、駅前商店などが本業の片手間にやる分には悪くない。
鉄道事業者側の視点で考えると、駅の合理化を図る場合は関連会社に業務委託する方法もあるが、コストの削減効果はさほど大きくない。一方で完全な無人化は大幅なコスト削減になるがサービス低下につながり、地元の理解も得にくい。わずかな手数料コストで「駅員」がいる状態を作り出せる簡易委託は、落としどころとしてはベターな選択といえるだろう。無人化後の駅舎の維持管理という面でも、「駅員」がいれば不具合などの早期発見につながるなどの利点がある。
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