中国「無差別襲撃」の背景に"詰む人"多発の悪循環 「人生を再建しにくい制度」が人の心を追い詰める
劉彦甫(以下、劉):深圳で9月、日本人学校に通う10歳の男の子が刃物を持った男に襲われて死亡してしまう事件がありました。日本でも大きな話題となりましたが、安田さんはこの件について、中国の社会情勢など背景をどうみていますか?
安田峰俊(以下、安田):こうした事件が起きる原因について、私はいつも、大体3つくらいの要素があるだろうと説明しています。
1つは、いわゆる「反日感情」。長らく愛国心教育というものが中国に存在してきて、もともと反日感情がある程度高いということです。次に挙げたいのは、2010年代半ばから中国でブームになっている「ショート動画」です。バズを稼ぐために愛国的なコンテンツ、デマ混じりのコンテンツを投稿する動きが広がり、こちらも大きな要因だろうと考えられます。
ただもう1つ指摘したいのは、中国社会では目下、(日本人に限らず)いろんな人に対する無差別殺人的な事件がかなり起きていて、実は深圳の事件も、こちらに位置づけられる部分があると思っています。
社会のあちこちで同じような事件が起きていて、その中でたまたまとまでは言いませんが、日本人がターゲットになる事件も起きている、という理解が正しいのではないかと。なので、そうした状況を根本的に消し去るには、なかなか大きな手術がいるだろうと思います。
監視体制の普及では防げないもの
劉:こうした事件が多発するのには、中国特有の事情があるのでしょうか。中国政府は一時期、「自分たちの国は治安がいいんだ」と主張していたと思うのですが、実際のところはどうなのでしょう。
安田:確かに、中国の治安は一般の日本人がイメージするであろうものよりはるかにいいです。昔と比べてなぜよくなったかというと、1つの要因は監視カメラの普及です。そしてスマホのGPSなどで人々の動きをサーチすることも含めた、国民監視体制の普及ですね。
これによって、何か物を盗んだり、自分の利益のために人を陥れたりといった”普通の悪い人”の犯罪は実際かなり抑止できます。自分がどこで何をしたか、すごく足がつきやすい環境なので。
一方で、「もう自分は捕まっても別にいいんだ」「死刑になっても構わない」という、やけっぱちになっている人の犯罪は、監視体制の強化ではまったく防げない。これが先ほど挙げたような無差別事件の背景にあるのではないかと思います。