なぜ地方の観光地は変われないのか 地縁血縁型の「地元プレーヤー」はもう限界

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地域の潜在成長性を引き出すために、やるべき投資を行い、営業方法を変化させ、互いに競争しながら成長していくというよりは、地元の横並びルールを守り、家族でそこそこ経営を成立させるという方向にインセンティブが働いてしまいがちなのです。

「可能性を可能性のまま終わらせない」ためには

今後、日本の観光産業振興を進めるには、前述のような過去の商習慣を守り、地縁・血縁型で展開する地元プレーヤーだけでは限界があります。観光立国を目指すなら、地元の関係者を集めて、補助金を投入しても、可能性を花開かせることは極めて難しいのです。

むしろ、地域外からの投資を積極的に迎え入れたり、地域内でも異業種の参入を促進していくことが重要です。例えば、越後湯沢という場所にありながらスキー観光とは一線を画した「里山十帖」、瀬戸内観光とは一線を画した「OnomichiU2」、善光寺参りに左右されない長野の飲食店やゲストハウスなど、観光地で従来と異なるアプローチをするのは、こうした地域内外の新規参入組です。

今後、本当に日本の観光に世界の富裕層を迎え入れるためには、1泊500万円以上の超高級旅館なども模索しなくてはなりませんが、それらはまさしく地域外からの新規参入が必須でしょう。

観光だけではありません。地方においては「可能性があると言われ続けながらも、なぜか『可能性のまま』で終わり花開かない」ことが多くあります。

例えば農業でも、その潜在成長性は語られながらも、耕作放棄地は今も全国に多く存在しています。水産業も世界有数の海域を保有し、潜在成長性が語られながらも、我が国の水産資源は枯渇が叫ばれるほどの状況になっています。また林業においても、国土の多くに多くの山林を抱え、その潜在成長性が語られながらも、荒れ果てた山が増加しています。

これらの構造は、観光と同じように、既存事業者が過去の商習慣と地縁血縁でがんじがらめのまま、可能性を現実のものにできないまま廃れていくというパターンばかりです。

地方においては、意思決定を既存の地元プレーヤーだけに任せない「ガバナンスの再構築」が非常に重要です。このガバナンスの再構築によって、新たな資本や人材が流入したり、地域内での異業種への参入を促す必要があります。そうすれば、日本の地方が保有するさまざまな資源は可能性から、実際に価値を生み出す段階へと移行していくのです。

可能性を可能性のまま終わらせない。その意味が問われています。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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