ユウイチさんのケースでは、ただちに同法に違反する問題はない。権限がなければ動けないという同市の言い分は一理ある。ただ半年間もの給料未払いは経済的虐待に当たる恐れもある。権限はなくとも、「求人票に仕事内容を明示しないことや、自宅待機中に賃金を払わないことは法律違反の恐れがある」といった一般論を伝え、注意を促すことくらいはできたのではないか。
一方でユウイチさんによると、10月下旬、労働基準監督署はこのA型事業所に対し未払い分の給与を支払うよう是正勧告を出したという。求人票の記載方法についても、取材で話を聞いた厚生労働省は「個別案件についてのコメントは差し控える」としながらも「求人条件と実態に相違がある場合は適正に対応するので、所管のハローワークに情報を提供してほしい」(職業安定局首席職業指導官室)と注意喚起した。
何もしない行政は大問題だ
A型事業所の取材では、ほかにも勤務時間の一方的な短縮や、勤務日の水増しといった問題もあると聞く。しかし、利用者がこうした実態を訴えても、行政側が動くことはまれだ。自治体の障害者福祉の担当部署からは「それは労働の問題」、労基署からは「それは福祉の問題」とたらい回しにされたと話す利用者もいた。
ユウイチさんの話では、名古屋市からの聞き取りに自宅待機を命じたことを認めていた事業所の職員は、労基署の調査に対し、一転して「自宅待機とは言っていない」と言い出したが、労基署側はこの“後出しじゃんけん”を認めなかったという。
今回は是正勧告に踏み切った労基署と、「何もしてくれなかった」名古屋市との間で対応が分かれた形だ。
しかし、是正勧告で問題が解決したわけではない。事業所からは今も賃金の支払いはない。また、是正勧告を受け、ユウイチさんは障害者への経済的虐待であるとして、居住地の自治体に通報をしたが、担当者は「言った言わないの話ですよね」と門前払いしようとしたという。
これに対し、「すでに労働審判の申し立ての準備をしています。地元の自治体にはあらゆる証拠を持って再度説明に行ったところ、ようやく『愛知県と協議します』と言われました」と語るユウイチさんの声は落ち着いていた。
一歩も引かないユウイチさんの闘志にはエールを送りたい。しかし、なぜ障害のある利用者がここまで奔走しなければならないのかとも思う。当事者ばかりに負担を強いる異様さと、「行政の不作為」こそが悪質なA型事業所がはびこる一因となっている現実を、行政機関はそろそろ本気で直視したほうがいい。
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