これが今年5月の出来事である。自宅待機命令の場合、企業は原則給料の支払い義務を負う。しかし、ユウイチさんはそれから半年近く、無給のまま“放置”されているという。
「求人詐欺」のようなやり方
ユウイチさんの勤務先は就労継続支援A型事業所(A型事業所)というところだ。障害などがあり、一般企業での就労が難しい人が雇用契約を結んだうえで、職員によるサポートを受けながら働くことができる。また、A型事業所には利用に応じて国から給付金が支払われる。つまり、ユウイチさんは労働者であると同時に福祉サービスの利用者でもある。
ユウイチさんは、ホテルまでの往復交通費400円を新たに負担しなければならないことも、清掃の仕事を断った理由のひとつだという。同事業所での時給は愛知県の最低賃金と同じ1027円(当時)で、月収は障害年金と合わせても十数万円ほど。すでに通勤のための定期券も自費で買っており、さらなる出費は避けたいと考えたのだ。
ユウイチさんが真っ先に電話をした行政とは、A型事業所の指定権限を持つ名古屋市障害者支援課である。続いて所管の労働基準監督署と弁護士にも相談をした。
ユウイチさんが同市に開示請求して入手した自身の苦情記録票によると、市の担当者の聞き取りに対し、事業所側もホテル清掃や自宅待機を命じたことは事実だと認めている。
ひとつだけ相違があるのは、事業所側が清掃業務について事前に説明したかどうか。事業所側は「見学時と面接時に清掃の仕事があると伝えた」と主張。これに対してユウイチさんは「『今後、ホテル清掃をやっていく計画もあります』とは言われました。でも、それは将来の話で、ましてや自分がその仕事をするとは思いませんでした」と反論する。
果たしてどちらの主張に分があるのか。
一般的には契約と違う仕事をさせるのは民法上の契約不履行に当たる。かりに口頭で説明していたとしても、求人票などに記載がなければ、労働条件を明示することを義務付けた労働基準法に抵触する恐れがある。加えて今回の求人票には、業務内容の変更範囲について「変更なし」と記載されており、この点においても職業安定法に違反する可能性がある。何よりユウイチさんの次の言葉で簡単に決着がつく問題だろう。
「だったら最初から『清掃の仕事』といって募集すればいいじゃないですか」
ユウイチさんによると、十数人の利用者のうちほぼ半数がホテル清掃に従事しているという。ならば、なおさら清掃の仕事で募集するべきだと、私も思う。
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