新国立競技場計画を迷走させた「5人の男」

すったもんだの末、白紙撤回

基本コンセプトは「多目的利用のスタジアム」。三つのワーキンググループ(WG)が有識者会議に設けられた。

競技団体の要望を取りまとめるスポーツWGは、日本サッカー協会名誉会長の小倉純二が率いた。作曲家の都倉俊一は文化WGを担当。両者の希望を競技場に取り入れる作業は安藤の施設建築WGが担当した。夢いっぱいのアイデアが競技場の規模を膨らませた。

22万平方メートルとされた巨大な建築物の中をのぞいてみよう。

面積は2倍でも収容人数は同じ

競技場に欠かせないグラウンド・トラックなどは2.6万平方メートル、観客席が8.5万平方メートル。控室など関連機能を合わせた競技場としての機能は合計で約12万平方メートル。全面積の半分強しかない。ロンドンやシドニーではこの大きさで8万人以上の競技場が成り立っている。

新国立競技場が抱える残りの半分、ここに「多目的競技場」の秘密がある。運営本部、会議室、設備室などの維持管理機能2.5万平方メートル、駐車場3.5万平方メートル、VIPラウンジ・観戦ボックス・レストランなどホスピタリティー機能2万平方メートル、ショップ・資料室・図書館などスポーツ振興機能1.5万平方メートルなどだ。

競技場をにぎわいのあるビジネス拠点にしよう、という考えが下地にある。

8万人を動員する国際大会は、多くても数年に一度だろう。国内の陸上競技は開催回数が少なく、集客に限りがある。サッカーや野球なら人が集まるが、年間の利用枠を埋めるには十分ではない。日本武道館や東京ドームでやっているようなコンサートやイベントで切れ目なく会場を埋める。開閉式の屋根を採用したのもそのためだ。雨天を気にせず、数万人を動員できるミュージシャンを外国から呼ぶこともできる。

そんな興行には、映像技術が不可欠。大型スクリーン向けの映像は日本が得意とする技術だ。映像を遠隔地から送信して大勢で見るパブリックビューイングや、3Dで立体的に見える映像配信のための装置を配備する。結婚式やパーティー、国際会議にも使えるようにする。

屋根があれば、帰宅難民も安心

「屋根つき」に鈴木がこだわった理由がもう一つあった。3.11の教訓だ。帰宅難民の対策に追われた。大学などの施設を開放し家に帰れない人々を受け入れた。都内は震度5でも大混乱だった。首都直下型が起きたらこんなものでは済まない。新競技場は50年は使う施設だ。その間に大災害が起こる可能性は大きい。東京のど真ん中に20万人が避難できる巨大なテントがあったら、どれだけの命が助かるか。

通常はにぎわいのある多目的スタジアムで収益を稼ぎ、災害が起これば巨大シェルター。新競技場のコンセプトはどんどん五輪から離れていった。こうしたアイデアは競技場問題を仕切るごく一握りの人たちの間では共有されたが、アスリートや納税者と議論を交わすことはほとんどなかった。新国立競技場をどのような目的で建てるのか。一番大事な論点が政府や国会、国民の間で共有されずに、計画は静かに進んでいった。

今年になって、3千億円を超える建設費案が明らかになると、JSCや、監督官庁である文科省に世論の批判が集中。その結果、焦点は「建設費はどこまで削減できるか」に移り、どんな競技場にするか、という問題の根本はまた、置き去りにされた。

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