首都の通勤線「廃止」フィリピン国鉄の残念な現状 政府に見放され、新路線建設へ用地明け渡し
一方でラッシュ時の混雑が深刻化する中、韓国製気動車の稼働率は半数以下に減少、203系も冷房故障やその他のトラブルで使えない車両が増え、輸送力は頭打ちの状態だった。PNRは輸送改善策として、2018~2020年にインドネシアの車両メーカー・INKAから気動車、機関車、客車を導入。203系の冷房装置もINKA製に換装した。
このように、なんとか運行を維持するべく独自の努力を続けていた中、首都圏区間の運行は3月で終了してしまった。
運行終了にあたって利用者からの反発はほとんど見られず、ひっそりと最終運行を終えた。2023年末頃から段階的に運行本数を減らし、ラッシュ時でも1時間以上間隔が開き、日中運行はほぼ取りやめていたのが効いているともいえるが、運行終了の当日まで通勤、通学、買い物と市民の足として利用されていたものの、なければないで困らない程度の路線に凋落していたことがわかる。
営業を終了したPNR在来線はNSCRの完成後、空いた用地に再敷設する計画もあるが、現時点では何も決まっていない。
日本の「技術協力」は実を結ぶか
筆者は以前、「国鉄車両検修基地建設事業」で建設されたカローカン工場を訪れたことがある。廃墟のような薄暗い工場内に、廃車体と取り外されたエンジンなどのパーツが並んでいるばかりで、本来実施されるべきヘビーメンテナンスが実施されている気配すらなかった。
この工場もNSCRの開業で接続する線路がなくなるため、閉鎖、解体され、用地はNSCR建設に供される。円借款で活性化が図られたはずの南方線も、マニラ寄りの区間はレールを剥がされたわけで、いったい何のためのODAだったのか、再検証する必要があるだろう。
フィリピン政府側からの要請があってこその借款契約であり、最大の問題はフィリピン側に鉄道を生かす意思がなかったという点であろう。しかし、日本の開発援助は「自転車の補助輪を外す作業」と例えられることがある。この結果からすると、日本側にも責任があるといえる。
さて、NSCRはPNRの所有にはなるが、運輸省は運営を民間会社に委託することも予定している。冒頭のJR東日本の動きも、これをにらんだものである。現状のPNRには任せられないというのは正直なところだろう。しかし、前述の通り大規模な新線であるNSCRを満足にオペレーションするには、相当数の高度な鉄道人材が必要で、単に民間会社に丸投げすれば解決という話ではない。
この点、NSCRに関わるインフラ側の2つの事業と並行して、JICAの技術協力「フィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化支援プロジェクト」が進行中だ。過去と同じ轍を踏まないためにも、これは非常に重要なプロジェクトである。この件に関しては、また稿を改めて紹介したい。
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