エプソン初の大型買収に"沈黙"競合から困惑の声 845億円で米ソフト会社買収、問われるシナジー
やっと繰り出した大規模買収にもかかわらず、買収の狙いについてエプソンからの発信はほとんどない。プレスリリースで「エプソンの戦略的ビジョンとハードウェアのリーダーシップを補完し、世界中のデジタル印刷の成長を加速させる」と説明するのみだ。買収についての会見や説明会も開催されていない。
競合他社からは「既存ビジネスへの影響については心配していないが、エプソンの狙いがわからない」と困惑や驚きの声が挙がっている。
ハードは強いがソフトに弱点
エプソンの売上高の約7割は、印刷関連のプリンティング事業が占めている。その大部分は家庭やオフィス向けのインクジェットプリンターであり、残りが産業用印刷関連だ。プリンティング事業以外では、プロジェクターや産業用ロボット、産業用水晶、時計などを手がける。
エプソンが強みとする家庭用プリンターは、オフィス向けプリンターほどにはペーパーレス化の影響を受けていない。しかし、業界共通課題としてのペーパーレス化にはエプソンも危機感を持っており、市場の大きなオフィス向けで他社からシェアを奪う、市場拡大が見込める産業用印刷を強化するなどの対策を採っている。
エプソンはインクジェット領域でハードウェアの商品力に強みがある。近年は基幹部品であるインクジェットヘッドの外販を急速に伸ばしている。
一方でソフトウェアの開発は弱点だった。エプソン製品の中には、一部Fiery社からシステムを購入しているものもある。エプソンにとってFiery社の買収は、システムの弱みを補完する意味がある。今後は「Fiery社の既存ビジネスであるシステム外販は続けながら、エプソンとしては産業領域を中心に自社の印刷機にシステムを組み込んでいく」(エプソン広報)と意気込む。