人類が失った「野生スキル」を取り戻すには? 古代ギリシャの羊飼いはすごかった

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たとえばパレオダイエット。パレオダイエットは、人間は石器時代の祖先にならって草で育った動物の肉、天然の魚、野菜、木の実、種子を食べ、農耕時代に生まれた米、パン、パスタ、その他穀物ベースの食品を避けている時がいちばん健康だ、という前提に基づいた食事法だ。

このほかにも、ナチュラルムーブメントを身につけるための、興味深いトレーニングがいくつか紹介されている。ジャングルで磨いた自然な動きを、都会でも活かすために考案された「パルクール」。これは、都市の景観をジャングルのように見立て、動物のように移動するというものだ。

人間の運動能力の進化モデルをもとにしたエクササイズプログラム「ワイルドフィットネス」。人類にとっての真の健康は、狩猟採集民の動きがすべてだと確信し、生存の鍵となる多彩さを重要視する。

こうして次第に、失われた革新的技術の正体が明らかになってくる。環境からの要求に対して想像力をもって適応できる条件を整えることが、英雄であるためのスキルなのだ。人類は進化の過程において便利な道具に囲まれていくうちに、われわれ自身の身体を道具のように使うということを忘れてしまったのである。

人類の身体は、3つの行為で役立つために進化したと言われるーー狩猟、採集、シェア。これら3つがあまりにも情報化してしまった昨今、行為そのものにも身体性を取り戻す必要があるようだ。そのために身体をアップデートするのではなく、ダウングレードすることの方が近道である。自ずとわれわれは、健康とは何かの代償と引き換えに手に入れるものではないことに気付き、スマートボディを取り戻すことができるのだ。

ノンフィクションならではの醍醐味が楽しめる1冊

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本書は英雄の足取りを追いかける冒険ファンタジーのようでありながら、実践的な内容も伴う。これぞノンフィクションならではの醍醐味と言えるだろう。

またナチュラルムーブメントのルーツとして、幾度となくギリシャ神話を引いている姿勢からは、本気で世の中を動かしていこうという、ブランディングとしての強い戦略性も感じた。仮想敵はスポーツ用具メーカーやフィットネス業界の狡猾なマーケティング手法である。だが、そもそもギリシャ神話をファンタジーととらえるのは現代人の奢りにすぎず、古代人たちはナレッジを集積したハウツー本として語り継いできたのかもしれない。

本書を一読すれば、英雄になるための技術は、誰もが身につけられることを確信するだろう。しかし本当の意味で英雄に必要なのは、自ら語ることではなく、他人に語り継がれることである。このテーマに最もふさわしかった書き手としての著者の存在を、最後のピースと感じさせながら、英雄譚は幕を閉じる。名もなき英雄たちが、真の英雄に生まれ変わる瞬間を目の当たりにできるのは、幸運であるというよりほかはない。

内藤 順 HONZ編集長

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ないとう じゅん / Jun Naito

HONZ編集長。1975年2月4日生まれ、茨城県水戸市出身。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。広告会社・営業職勤務。好きなジャンルは、サイエンスもの、スポーツもの、変なもの。好きな本屋は、丸善(丸の内)、東京堂書店(神田)。はまるツボは、対立する二つの概念のせめぎ合い、常識の問い直し、描かれる対象と視点に掛け算のあるもの。

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