(第25回)発展可能性を持つ独立した中小企業

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中小企業のメリットを活かせるか?

レベル4には同族会社が多数あることが、レベル3企業との本質的な違いだ(ただし、同族会社でトヨタ系である企業もある。つまり、資本支配を受けていない系列企業もある。ただし、事業上の自由度がどの程度あるかは、わからない)

同族経営には、もちろん問題もある。経営者一族が恣意的な人事をしたりするなど、会社を私物化している事例があることがしばしば指摘される。確かにそうだろう。

しかし、他方で、メリットもある。レベル3までの企業は、資本支配されている。それは、持ち合いというより一方的な上下関係であるため、事業上の意思決定が制限される場合が多いと思われる。しかし、資本的に大企業に直接に支配されていない企業では、ワンマン社長が強い権限をもって決断できる。事態の変化に対して素早い対応ができるし、小回りもきく。「小さいことのメリット」を活かそうと思えば活かせるわけだ。

優れた技術を持っていれば、さらに強い。『会社四季報 未上場会社版』に取り上げられている企業には、独自の技術を持つものが多い。したがって、経営は安定的でないかもしれないが、発展の可能性を秘めている。

もちろん、こうした議論がすべてのレベル4企業に当てはまるわけではない。同書に掲載されているのは優良企業であることを忘れてはならない。海外生産にしても、多くのレベル4企業は、まだ行っていないだろうし、今後も簡単には対応できないだろう。

だからこそ、前述のように、金融、税制面で措置がなされているのだ。中小企業を「弱い対象、保護すべき対象」と捉えて援助するのが、そうした措置の背後にある基本的な考えだ。もちろん、そうした援助が必要な中小企業も多いだろう。

しかし、中小企業の発展を阻害しているのは、金融や税制上の制約ではなく、人材上の制約である場合が多いと考えられる。とりわけ、右で見たように事業上の自由度があり、技術力を持つ企業の場合にはそうだ。しかも、さまざまな条件は、そうした企業に有利な方向に変化しつつある。日本経済の現状を打破するために、レベル4企業の潜在力を重視する必要がある。

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年12月3日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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