新幹線車内を"広く"感じさせる「錯覚」の力 デザインに隠されたこれだけの秘密
福田氏らデザインチームは、車内空間のデザインにおいて、カタチ、色のしつらいはもとより、素材の選定などにも深くかかわっている。
「単にそこにあるカタチだけでなく、光を受けたときのカタチや色、質感、そうしたものを、デザインはコントロールできます。そうしたなかで乗客にとって開放的で、またある時には落ち着ける快適な空間の最適解を探していきます」
身近な例でいえば、濃い色のカバンより薄い色のカバンのほうが軽く感じる。持つ人から見て上部が薄ければ、底に行くにしたがって厚くても、全体としてボリュームを感じず、結果、実際の重量より重さを感じない。新幹線の室内においても、そういった錯覚を生かした手法が使われている。
細部まで丸みにこだわった室内
そのひとつが室内の壁だ。天井両端の丸みは認識している人も多いだろうが、実は、床と壁面は直角に交わらず、この部分のカーペットを斜めに立ち上げることによって丸みを帯びたつくりとなっている。丸みを帯びることで、その曲面からの立ち上がり分、直線の壁よりも広がりを感じさせることができ、床面が広く見える。
加えて天井面ではこの曲面の壁に間接照明で陰影をつけ、光のグラデーションを作ることで、柔らかく、広がりのある空間になる。「奥行と幅」だけでモノを見ると狭く感じるが、放物線でつなぐと陰影ができるので奥行も感じるというわけだ。
それ以上に、やわらかく広がりのある空間を演出しているのだ。
照明だけではない。壁面の色は下部分が濃く、グラデーションで上にいくにしたがって明るい色となっている。濃い色のカーペットから壁面につながり、天井に向かうにしたがってパターンの密度が薄くなっていく。全体が一体感のある空間となるような、こうした工夫でより視覚上の錯覚がもたらされ、上に抜けるような解放感を与えている。
椅子に座った人は、天井面も合わせた四隅の仮想点(virtual point)が広がる。要するに足元の壁側がほんのり暗いことで、その壁までの「体感する距離」が長くなり、窮屈さがやわらぐ。
さて、ここでもう一度、車両の入り口から座席に座るまでの様子を思い起こしてほしい。新幹線車内には、目に見える範囲で鋭角なエッジがほとんどない。コーナーの柱は大きくR(円の半径)をとるなどといったことが、細部にいたるまで「当たり前のように」(福田氏)行われている。
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