「世界大戦リスク」がこうも高まってきた背景事情 どの国境、どこの地域が舞台でもおかしくない

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さらにロシアは、ウクライナのみならず西側の支援諸国に対する核兵器使用までちらつかせた。幸いいまのところ実行に至っておらず、ありがたいことにプーチン大統領の頭のなかでは、核抑止という冷戦伝統の枠組みがまだ機能しているようだ。抑止には保障がともなうのが本来の形だが、ロシアの安全保障は脅威を受けないとプーチン大統領に約束する外交努力は、これまですべて失敗している。おそらく最初から方向がずれていたのだろう。

ロシアと中国による共同声明の意図

実際のところ、プーチン大統領に働きかけた最大の外交努力は、むしろ侵攻を奨励する形になってしまった。侵攻が3週間後に迫った2022年2月4日、プーチン大統領と中国の習近平国家主席は北京で会談した。両国が調印した共同声明には、次のように書かれている。「共通の隣接地域において、安全と安定を損なおうとする外的勢力に立ちむかい、あらゆる理由をつけて行なわれる主権国家の内政干渉に対抗する」。

つまりロシアと中国は、国境を接する周辺諸国までを自国の勢力圏と見なし、その「安全と安定」を勝手に定義して、他国に干渉する意図を明言しているのである。

この共同声明もまた、西側への抑止効果を意図したものだ。世界最強の核保有国のうち2つが手をたずさえることが見てとれる。さらに、西側の主導体制や国際法解釈に反発を覚え、中国やロシアの後ろ盾がほしい国々に結集を呼びかける役目も果たしている。

共同声明は、中露の戦略的パートナーシップに「制約はない」とうたっている。たとえそれが軍事同盟の形を取らないとしても、西側の抑止戦略が直面する壁はいっそう高くなった。

その理由は単純明快だ。中露戦略的パートナーシップから明らかなように、いまや大国の競争はどの国境、どこの地域が舞台になってもおかしくない。2022年6月、シンガポールで開かれた国際戦略研究所のシャングリラ対話で、開会の辞を述べた日本の岸田文雄首相は「今日のウクライナは明日の東アジア」だと表現した。地域の悲劇が別の場所で繰りかえされるだけでなく、欧州と東アジアがひとつの戦略的空間としてつながっているという意味だろう。

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