実は、狩猟時代のほうが農耕時代より豊かだった? 最近の研究で明らかになる、太古の人間の生活

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科学は魅力的な学問ですが、進歩観のもとで科学技術を進めることが良い選択とは思えず、科学に基礎を置きながら「べつの道」を探る「生命誌」という知を考えました。

「『私たち生きもの』のなかの私」という現実を基本に置いた物語を紡ぎ、時には自然界の生きものたちが紡いでいる物語を読むことで、自然の一員であることを意識しながら、自然を解明し続けて行きたいのです。

こうして生きものとしての「本来の道」を歩けば、破滅を避けることができるのではないか。やや大仰な言い方をするなら、文明の再構築の試みです。

農耕は世界の5つの地域で始まった

農耕の始まりの場、つまり現在私たちの食生活を支える中心的作物が最初に栽培されたとされる地域は、南西アジア(コムギ、エンドウなど)、中国長江流域(アワ、キビ、コメなど)、中央アメリカ(トウモロコシなど)、アンデス(ジャガイモなど)、北アメリカ東部(ヒマワリ)の5カ所であることがわかってきました。

このなかで最古とされるのが、紀元前8500年頃の南西アジア(メソポタミア)であり、コムギなどの栽培のほか、ヤギの家畜化も行われていました。

興味深いのは、その後紀元前3500年までの間に主要作物にオオムギなどが加わりはしたものの、この5地域で栽培され始めた作物が今も食され、しかも私たちの摂取カロリーのほとんどが、これらに頼っているということです。

つまり、植物の中で栽培に適したものは非常に少なく、農耕を始めなかった地域は、そこに暮らす人々にその気がなかったからではなく、栽培できる植物がなかったためといえそうです。

こうして限られた人々が農耕を始めたのではなく、限られた植物が農耕を可能にしたのだと知ると、人間と自然の関係をこれまで人間の支配という目で見過ぎていたことに気づきます。

狩猟採集時代には多種多様な植物や動物を食べていたことがわかっており、今私たちが知っている栄養という概念で見たときに理想的といってもよい食生活をしていたようなのです。このときのほうが自然をよく知り、ある意味、豊かな生活をしていたともいえるわけです。

狩猟採集から農耕への移行は、両者が混じり合いながら徐々に農耕文明へと移りました。ここでの課題は「多様性」の消失でしょう。多様性の重要さはさまざまな側面から明らかになっており、農業においてそれが重視されてこなかったことは、頭に止めておきたいことです。

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