新型イースで見せたダイハツの「原点回帰」、軽でハイブリッドに対抗
「エンジン屋ではなく“イース屋”になれ」
いま軽は「トール系」全盛期だ。車高をできるだけ高くして室内空間を最大化する。1998年に車両規格が大きくなったことや、トヨタ「ヴィッツ」など低価格コンパクトカーの出現で、対抗上、軽の商品強化が必要だったことなどが背景にある。
だがその結果、車両価格ではコンパクトカーより軽のほうが高いということは珍しくなくなった。また車高の高さは燃費にマイナスに働く。2008年ガソリン価格の高騰をきっかけに、燃費の良いハイブリッド車(HV)などに需要がシフト。このままでは軽は価格面でも燃費面でも中途半端な存在になる──。イースの開発にはこうした危機感がある。
「燃費性能30キロメートル/リットルをHVの半値で実現する」。これが開発陣に課された目標だった。燃費基準はより実用に近いJC08モード。さらに通常3年ほどの開発期間は、わずか17カ月しかなかった。
そこで導入したのが「バーチャルカンパニー」だ。設計、調達から営業、広報まで10を超える部門から責任者を集め、メンバーの人事権や人事評価を担当役員に一本化した。
通常の新車開発では「チーフエンジニア」が選ばれ、各部門の担当者を束ねる。ただ担当者の身分は各部門に残るため、意思決定が遅く、出身部門の利害から離れられない。
「エンジン屋、ボデー屋ではなく、“イース屋”になってくれ」。10年1月のチーム発足時、担当役員の福塚政廣・技術本部副本部長はそう語りかけた。目標を達成できなければ、言い訳は許されない。メンバーはひざ詰めで問題点を潰した。開発が進むにつれ、営業などが加わり、“イース屋”は約100人に及んだ。
原価低減は三つのステップを踏んだ。約9割の部品において性能の維持を前提に、設計を徹底的に見直す。たとえば計器板内部の部品は従来の「ミラ」と比べ、3分の2に減らした。部品点数が減ればコストが安くなり、軽くなれば燃費にも効く。第二に部品のオーバースペックを見直し、軽に合った部品仕様を追求した。そしてその過程で幅広く部品メーカーに声をかけ、14の新規取引先を開拓。物流費抑制などを狙い、生産拠点のある九州における現地調達率を65%まで高めた。