「スキマバイトをやめられない」52歳男性の窮状 企業都合のドタキャン、休業手当の未払い…

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結論から言おう。これらは悪質なデマである。たしかに日本には、クルド人に限らず生活に困窮した難民申請者に対し、国が「保護費」を支給する制度がある。金額は、生活費が単身者で1日2400円、住居費は上限4万円。「1人10万円」の根拠はおそらくこのあたりにあるのだろう。

しかし、保護費を受給できるのは原則初回の難民申請者のみ。予算規模も諸外国に比べて乏しく、受給者数は難民申請者の1割に満たないとされる。また、家族で受給したとしても、2人目以降は1日1600円(12歳未満は同1200円)なので、「4人家族で40万円」はありえない。

しかし、SNSなどに目を転じると、シンゴさんが言う通りの言説があふれかえっている。デマを真に受けた「困窮している日本人が哀れ」「クルド人は公金チューチュー」といった書き込みも目に付く。1923年の関東大震災の直後、根拠のないデマに踊らされた日本人がすさまじい数の朝鮮人や中国人を虐殺した惨事から、日本の社会は何も変わっていないのだと思うと、ぞっとした。

認定NPO法人難民支援協会広報部は「日本は難民条約に加盟しています。難民申請者の生活保障含めて、難民の保護と受け入れは国の義務であり責務でもあります」と説明。保護費受給者に批判の矛先を向けること自体が筋違いなのだ。

スキマバイトがなかったら路上生活になる

再び話をスキマバイトに戻したい。

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企業によるドタキャンなど働き手ばかりがしわ寄せを食う仕組みは早急に改善すべきだが、私自身は、学生や安定した本業のある人などはスキマバイトのアプリを利用すればいいと思っている。ただ生活に困窮した人がこのような不安定雇用に頼らざるを得ない環境は望ましいとはいいがたい。原則禁止されている日雇い派遣と同程度の規制は必要だろう。私がそう伝えると、シンゴさんから食い気味にこう返された。

「スキマバイトができなくなるのは困ります。間違いなく路上生活になります」

ウーバーイーツの配達のように短時間の単発の仕事を請け負うことを「ギグワーク」という。スキマバイトは同じく単発、短時間契約が前提である「オンコール労働」といえるだろう。社会保障の適用除外となりがちなこうした働かせ方に対して、アメリカやEU諸国では労働者の権利を守る方向での規制が進む。労働者自身による組織化も活発だ。

シンゴさんの切実な反論に、私は返す言葉がなかった。一方でギグワークやオンコール労働を「好きな時間に好きなだけ働ける」と無批判に受け入れるだけの周回遅れの社会に未来はないとも思う。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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