「スキマバイトをやめられない」52歳男性の窮状 企業都合のドタキャン、休業手当の未払い…

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私は最近、スキマバイトの問題を取材する機会が増えている。企業側のドタキャンや休業手当の未払いという事例はほかの利用者からも聞いた。ある人は「タイミーに訴えたら休業手当は払われました。でも、その後、その会社からの募集はピタリとなくなりました」と話していたので、シンゴさんの懸念は杞憂とはいえない。

シンゴさんは自身の家族について多くを語らなかった。ただ体罰が当たり前の家庭で、高校卒業後は家出同然に実家を離れた。一時は正社員として働くも、法律が規制緩和されて派遣で働ける職種が増えた後は派遣労働に就くように。

「最低賃金同然の時給が多くて、深夜割増が払われなかったこともありました。派遣のリーダーも任されましたが、手当をもらったことはないですね」とシンゴさん。寮付き派遣では雇い止めと同時に住まいを追い出され、ネットカフェ暮らしを余儀なくされた。

この間、2度ほど生活保護を利用して生活を立て直した。しかし、申請のたびに自治体はシンゴさんの意思に反し、親族に支援ができないかを確認する「扶養照会」を強行。そのせいで長年絶縁していた兄弟が突然自宅に現れた。シンゴさんは生活保護は二度と利用しないと決めたという。

最後のセーフティネットを奪われ、シンゴさんは次第に追いつめられる。まずガス料金が払えず、利用をやめた。食事は1日1食にしたが、水だけでしのぐこともあり、1カ月で体重が7キロ減った。治療費を工面できないので前歯は欠けたままだ。

派遣を含めた非正規労働の給料の支払いは翌月以降であることが多い。その日の食費にも事欠いていたシンゴさんがウーバーの配達を始めたのは、報酬が週払いだったからでもある。さらに食料配布の会場で同じく貧困状態にある人と話をする中で「スキマバイトはその日にお金をもらえる」と知り、飛びついた。給料の即日払いはスキマバイトの売りのひとつだ。

「一度始めちゃうとやめられない地獄」

スキマバイトで生計を立て始めると元には戻れない。その仕組みに不信感を抱きながらも従わざるを得ない日々を、シンゴさんは自嘲気味にこう表現した。「一度始めちゃうとやめられない地獄。まあ自己責任だといわれるでしょうが」。

市民団体が無料で配った食料の一部。こうした現場で生活困窮状態にある人たち同士が、給料が即日払いのスキマバイトについて情報をやりとりしているのだという(筆者撮影)

話は変わるが、国会中継を見るのが趣味だというシンゴさんとの話は楽しく、興味深かった。ただ一つだけ、聞き流せないことがあった。どのような公助が必要かと尋ねたとき、シンゴさんが「外人に10万円を渡す前にまず日本人を助けてほしい」と言ったのだ。

ちなみに「外人」には「仲間以外の人」などの意味もあるので、私たち記者は「外国人」という言葉を使う。そのうえで外人とは?と問うと、「埼玉のクルド人」だという。シンゴさんは「クルド人はみんな国から毎月1人10万円をもらってるんですよね。『4人家族で40万円』だと、ネットで何人もの人が言っています」と訴えた。

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