糖尿病で亡くなるまでのリアルを残した体験記 「右目だけで見るとまっかにそまった室内…」

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「右足切断」のページも同じ調子だ。右足の親指の付け根が痛み出した4~5日後に親指が真っ黒に変色し、壊疽を起こしていると判明。そのまま入院して、切断するに至ったことを同じ調子で振り返っている。

「医師『さて、どこから切ろうか』
 私『おまかせします』
 医師『足首から切ってもいいんだが、再発しやすいから安全策を取るなら膝下からだな』
 私『切るのは痛いんでしょう?』
 医師『まあ…。痲酔はかけるし、飲み薬もだしてあげるよ』
 私『2度も痛い思いをするのはごめんですから膝でお願いします』
 医師『でも、かかとで切れば後が楽だけど膝下で切ると義足が大変だよ』
 私『とにかく痛いのはイヤなんです。バッサリやってください。』」

以降のレポートも調子は変わらない。糖尿病食を心がけながらも、タバコとお酒を止められない自堕落さを話のオチに使いながら、自らを突き放したコミカルなトーンで病の進行を書き記している。

糖尿病
右足を切断したときの様子を記したページ(筆者撮影)

読者に向けた真摯なメッセージ

ただ、外部からの反応を拒絶して、内にこもっていたわけではない。折に触れて読者に向けた真面目なメッセージを織り交ぜていることから、ある種の覚悟を持って書いていたのは確かだ。

「人工透析」のページには、こんな所見を添えている。

「糖尿病はそれ自体ではたいして恐しくはない病気ですが、合併症をまねくと本当に恐ろしい病気に変身してしまいます。しかも、同じような病状の人でも、合併症になるかならないかは予想できません。
 私を『おろかなやつ』と笑って結構です。でも、あなた自身は絶対に同じ道をたどらないと約束してください。」

読み手から起こるであろう非難の声をものともしない強さは、死後も新たな読者を引き寄せていく。実際、「雑談用掲示板」には、2012年以降も警鐘として読み終えたと感謝する声や、すでに亡くなった筆者の自堕落を怒る声などが1カ月に0~2回程度のペースで書き込まれていた。

その掲示板も2013年の秋頃にレンタルサービスが消滅し、現在はメインコンテンツしか残っていない。もうどれだけの読者が訪れているかも、どんな感想を抱いているかも分からない。しかし、インターネット上で「管理人が死んだ後に残ったサイト」の話題が上るとき、いまだにこのサイトのURLが貼り付けられるのを目にする。

故人サイト (鉄人文庫)
『故人サイト 』(鉄人文庫)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします
#サイト情報
落下星の部屋
http://rakkasei.syogyoumujou.com/
■最終更新:2002年11月3日
■亡くなった推定時期:2002年11月~12月頃?
■死因:病気(糖尿病関連)
古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。
X:https://x.com/yskfuruta
 

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