
出所:日比津中学校資料
例えば、生徒ノートというのは、生徒と担任との交換日記のようなかたちで、生徒は日々感じたことや、ちょっと悩んでいることをつづるものだ。これでSOSをキャッチできることもあるが、担任はコメント返しで毎日1時間くらい要することもあって、そうとうな負担ともなっていた。
生活ノートも教員間の意見が分かれるもので、日比津中でも賛否があったし、やめると保護者からクレームが来るのではないかといった心配の声もあった。だが、生徒のSOSはほかの手段でも把握できるし、必ずしも担任からの長いコメントが必要なわけではないので、簡素化してみることにした。
こうした取り組みの結果、日比津中では昨年度、平均の月当たり時間外勤務時間は半減し(同じ月で比較しているわけではないので厳密な検証ではないが)、時間外45時間以内の教員が8割以上となった。
何より、時短効果以上に、教職員も私も実感したのは「学校は変えていける」「自分たちの働き方は自分たちの力で変えていける」という教職員の手ごたえ、効力感ではないかと思う。当初「どうせ変わるわけがない」と冷ややかだった状態とは大違いだ。

急がば回れ、教職員の参画やボトムアップが大切な理由
日比津中のように、教職員の参画と対話というプロセスはとても大切だ。忙しい学校からすれば、回り道で、面倒だと思われるかもしれない。だが、たまには腰を据えて、話し合って行動することを決めることが、結果的には近道になる。
そもそも働き方改革などの学校改善には、トップダウンとボトムアップの両方が大事だ。
文科省や教育委員会において、見直しの方針を示したり、各校のみで実施が難しいことを行ったりする、トップダウン的な施策は必要だ。例えば、部活動で休養日を設ける方針を定めて、各校が遵守するようウォッチしたり、書類や手続きを見直して事務処理負担を減らしたりするのは、設置者(各教育委員会)の役割だ。
だが、トップダウンだけでは限界がある。一般の方にはあまり知られていないかもしれないが、学校裁量(校長権限)の業務も多いからだ。学校行事や部活動の数をどうするかや、生活ノートなどの生徒指導の取り組みの多くは、文科省や教育委員会が細かな縛りはつけておらず、学校裁量である(いじめ対策などは別)。
通知表でどれくらいコメントを書くか、児童生徒の課題や作品にコメントを書くか(スタンプなどで済ませるか)、学級通信を出すかどうかなども、学校裁量もしくは個々の教員の判断だ。掃除は義務付けた法令などはないが、前述のとおり学校予算が少ないので、事実上せざるを得ない状況だ。
それにトップダウンばかりでは、教職員にとっては、やらされ感が募り、推進力が高まらない。何か学校で取り組むときには、自分も参画して決めたことだという実感があるかどうかで、先生たちのやる気は違ってくる。
掃除や生活ノート、部活動などの見直しで、考え方、教育観が違っていても、ある程度対話と議論を尽くしたうえでのことなのか、それとも単に校長からやれと言われて渋々やるのかでは、その後の展開は全然違ってくる。
「いい事例はないですか?」という少し残念な質問
私が研修・講演の際に、必ずと言ってよいほど聞かれるのが「いい事例はないですか?」という質問だ。校長などからもよく聞く。
もちろん、事例を知っていたほうが参考になるし、自分たちの中の抵抗感は下がるだろうとは思う。だが、体感では8割以上、こういう質問をする人は、自分で事例を探してから質問をしているわけではない。文部科学省も事例集を出しているのだが、読んだことはないという。