学校現場はかなり改善されてきているが…

15年ほど前に、ある県の教育委員会から時間外勤務の縮減についてのコンサルティング依頼があり、初めて学校現場に入り、実態を知ることとなった。当時はICTの環境も十分ではなく、職員室は雑然とし、物を探し回る、個人のペースで物事を進める人が多いなど、組織としてみると統率が取れていない状況があり、正直驚いた。

善積康子(よしづみ・やすこ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 研究開発第1部(大阪) 主席研究員
学校教育・学校の働き方改革支援をはじめ、福祉政策(高齢者、障害者、児童等全般)、住宅政策、地域振興、活性化、市民協働まちづくり支援など幅広い分野を専門とする。業務改善や教頭・副校長向け研修などの講演実績多数。 文部科学省中央教育審議会の学校における働き方改革特別部会の委員も務めた経験を持つ
(写真:三菱UFJリサーチ&コンサルティング提供)

そもそも勤務時間の管理がされていないに等しく、勤務実態の把握、退勤時間が遅くなる要因の分析、それに基づく業務の見直しなどができていない、つまり改善が進まない状況であった。

その当時から見れば、今の学校現場はかなり改善されてきている。環境も改善され、働き手の意識も変わってきている。それでも働き方が変わっていない、仕事の負担感が大きい状況にある学校や教職員はいまだに多い。

制度については、学校や教職員をサポートする人材の配置、事務処理・情報共有でのICT活用促進、部活動の地域移行など、国も相当力を入れて改革に取り組んでいる。時間を意識することだけでなく、働きがいについても意識を向け、「教職員は高度な専門職である」と明確化し、業務量の管理と健康・福祉を確保するための計画策定を教育委員会に義務づけた。

ただし、人材の確保や環境整備は、国の補助があっても結局自治体が予算を確保できるかどうかで実現性が変わってくるので、自治体の理解、教育委員会の動き方はかなり重要である。

国・教委など複数の組織から指示が来る学校の大変さ

私が学校現場の課題を考察する際にしばしば思う例えだが、もし学校が、文部科学省を本社とし、都道府県、市町村教育委員会が支社、学校が地域の事業所と考えると、かなり巨大な企業といえる。同じように支社などが多い構造の企業は、地域の独自性はありつつ、事業所はグループ共通のルールに基づくことを求められ、よくも悪くも裁量の幅はそれほどないかもしれない。

とくにコンプライアンスの厳しい昨今はさまざまなチェック機能が入ってくる。つまり、事業所が同じ方向で仕事をするよう、また社員満足度を下げないよう、組織が効率的に持続的に運営されるノウハウが必要となる。もちろん、企業がうまく運営できているかというとそうではないところもあるのだが、事業所は予算や人の確保、トラブル予防や何かあったときの対応などは大きな仕組みの中で対処され守られることが基本となる。

そういった視点で見ると、学校の大変さがよくわかる。トラブルへの対応も基本的には学校が行い、学校運営に必要な人材が十分に配置されていないという声はよく聞く。国、都道府県・市町村教育委員会など複数の指示組織があり、各々の機関の各々の担当部署から多くの指示等の連絡が来る。

サポート人材などは、学校現場が探してくることを求められる場合があり、結構なハードルになっている。人材には適正があると思うが、まずは人を、という状況にあるのだ。またICT支援員が配置されていても、ICTに詳しい教職員がその学校にいるかどうかでICTの使い方やトラブル対応に差が出る。また保護者や地域は基本的には学校に対して協力的で、学校を大切で必要な存在として接しているが、時に学校が対応に困る存在にもなる。

児童生徒を教育する使命感をもって、その職に当たる教職員がほとんどであることは言うまでもない。子どものことを思い、どうしたらうまく教えられるのか教職員同士で話し合い、教材の工夫をし、心に残る行事の企画を考えている姿を、この仕事を通して学校に入る機会を得て目の当たりにした。

だからこそ、働きがいのある、続けていける職場となるよう変えていく必要がある。しかし学校個々の運営力が高くないと、多くの依頼等文書への対応、児童生徒の校内外問わず生じる問題、多様な校務分掌、外部との折衝・調整に追われ、教材研究、教職員としての学びの時間の確保や個人としての生活などとのバランスがうまく取れない状況が生じてしまう。

まずは実態把握から、改善活動は教職員の話し合いで決める

私(会社)が学校に支援に入る場合は実態把握に時間をかける。管理職の方々から学校の状況について伺い、教職員にはアンケートをお願いする。手間を増やすと言われるかもしれないが、教職員の仕事に対する意識や言葉にされにくい悩みなどがよく表れ、学校としての課題を把握することに役立つ。また勤務時間のデータによる実態把握や教職員の話も聞きながら学校の現場観察などを行う。

それらを総合的に見た当該校の課題を当社にて整理し、管理職も含めた教職員によるワークショップを行って、まずその内容を伝える。それを聞いたうえで、何を改善するか話し合いをしていただくのだが、自分だけが感じていたことではなく、ほかの教職員も感じていたことに気づき、変えていきたいことをみんなで共有するこのプロセスが最も重要である。改善活動は、教職員自らが取り組むものであり、話し合って決めたことであれば納得感を持って取り組めるからである。

このとき、事務職員もぜひ意見を言っていただきたい。実は改善のカギを事務職員が握っていることがあり、ある意味客観的に学校を見ていて、その学校に合った対策を提案してもらえることが多いうえ、実践の中心として活躍していただけることも多いからだ。

これまで当たり前のようにしてきたことが子どものことを考えても本当に必要なのか、時間投入の実態も考慮して、もし必要なら方法も同じでよいのか、工夫の余地はないのかなど改善策が話し合いの中で出てくる中で、自分は無駄なことだと思っていたが、実はこんな意味があったのかと気づかれる場面もある。学校の中でそうした意味を伝え合うことがあまりないからだろう。

学校は転任者が年度当初にたくさんいる職場なので、実施する取り組みについて、その意味を伝え必要性を話し合うことは、それまで毎年実施してきたことであっても必要である。その年度に所属している教職員により学校は運営され、また子ども自身も変わっていくので、前例踏襲が必ずしも正解ではない。

働き方改革を進めるポイントは「管理職」

運営力が必要と前述しているが、学校運営の要となる管理職の役割は重要である。昨今、経験年数が浅い教職員が増え、若手の育成を意識した学校運営が求められているにもかかわらず、中堅以上の教職員も人数がぎりぎりで学年や教科、分掌の中核となって動くことでの負担感が高まっている。

その中で、業務全体の見直しや方法の工夫は避けて通れないはずなのだが、実はあまり見直すことなく運営されている学校も少なからずあり、管理職のリーダーシップが問われる。校長が代わっただけで職場の風通しが改善され、職員がのびのび働くようになった学校をいくつも見てきた。

働き方改革がうまく進む学校は、前例を当たり前として受け止めず、教職員がよく話し合い、工夫をする学校である。こうした学校は教職員の校長等管理職への信頼が高く、校長は教職員に日頃からよく声をかけ、改善に向けてモチベーションを高め、教職員間で誰が何をするのか話し合いの場を持ち、自分の意思で取り組みに参加していけるよう働きかける。現状では難しいと感じるところは段階的に進めるなど、見通しを持っている。

逆に改革が進みにくい学校は、学校での教職員の一体感が弱く、意見が言いにくい空気や連携した動きが取りにくい状況が目立つ。メンタルに影響するような発言が教職員間であったり、保護者や子どもへの説明が人によって違いがあったりしてトラブルの要因になっているケースもあるなどチーム力に課題がある。

必ずしも管理職に問題があるわけではないが、校長はじめ管理職が改善に向けて動かないと変わっていくことは難しい。うまく改革が進む学校のように管理職等が働きかけることでチーム力が高まることは期待できる。

当社が実施したアンケート結果を参考に紹介する。グラフにあるA小学校は職場内で職員間の不協和音がある学校で、B小学校は地域が少し大変な状況にある学校だが、教職員が一枚岩で連帯感が強い小規模校、C小学校はいわゆる普通の学校ととらえてほしい。

A小学校は自由に意見が言えないという人、連携がうまくできていないと思う人、職場の雰囲気がよくないと思う人の割合が他校に比べて高いことがわかる。また管理職への信頼もやや低くなっている(このA小学校は調査時点で校長が代わったばかりだったので、このあと校長の尽力で改善されたと聞いている)。A小学校のように、学校のチーム力が弱いと改善が進みにくい。

働き方改革として予算を立て、制度変更などを検討することは今後も必要だが、環境が改善されてもそれを活用できるかどうかはやはり人次第である。また改革は一度実施すれば終わりではなく、継続し続けるものである。人の入れ替わりが多い職場であることも踏まえ、何のために取り組んでいるのかということを折に触れて確認されることをお勧めする。

(注記のない写真:Graphs / PIXTA)