「スポーツ離れ」は起きていないが、部活動の加入率は減少

子どもの体力や運動能力が低下し、少子化によって運動部活動の休廃部が増加している。こうした課題を受け、笹川スポーツ財団では、子どものスポーツ実施の現状を把握しようと、2001年に質問紙による調査をスタートした。当初、対象年齢は10代としていたが、段階的に幼少期の子どもや青年まで拡大し、「実施頻度」「実施時間」「運動強度」などの観点から継続的に調査を行っている。

今年3月に公開された「子ども・青少年のスポーツライフ・データ 2023」は、4~11歳(2400人)と12~21歳(3000人)の子ども・青少年と、保護者を対象に調査を実施した。

まず意外なのが、4~11歳の子どもたちの運動・スポーツの実施頻度。「非実施群:過去1年間にまったく運動・スポーツをしなかった」(3. 4%)、「低頻度群:年1回以上週3回未満」(18. 6%)、「中頻度群:週3回以上週7回未満」(34. 7%)、「高頻度群:週7回以上」(43. 3%)と、高頻度群が高い結果となっている。

近年、子どもたちのスポーツ離れが指摘されるが、それなりに運動している子どもが多いようだ。同財団 スポーツ政策研究所 政策オフィサーの鈴木貴大氏は、こう説明する。

鈴木貴大(すずき・たかひろ)
笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策オフィサー
2014年立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科修士課程修了(スポーツウエルネス学修士)。専門はスポーツ社会学。2018年4月より現職
(写真:笹川スポーツ財団提供)

「過去1年間によく行った種目を見ると『おにごっこ』(57.2%)『ドッジボール』(32.0%)などの割合が高く、日々の遊びを通じて体を動かしていることがうかがえます。この傾向は、2019年から大きな変化はありません。ただ、実施頻度については年次推移を見ると、全体の傾向として減少傾向にあると考えられます」

12~21歳の青少年は5つのレベルに分けて調査しており、「レベル0:1年間にまったく運動・スポーツを行わなかった」(20. 7%)、「レベル1:年1回以上週1回未満」(16. 0%)、「レベル2:週1回以上5回未満」(22. 3%)、「レベル3:週5回以上」(21. 4%)、「レベル4:週5回以上、1回120分以上、運動強度が『ややきつい』以上」(19. 6%)となった。

「こちらも2019年から比べて大きな変化はありません。年次推移を見ると、高頻度・高強度で運動をしているレベル4が減少傾向にあります。これはスポーツ庁が示すガイドラインに沿って活動する部活動が増えてきたため、練習日数や時間が適正化されてきたことも影響していると考えています。一方、レベル2と3の割合は微増していることからも、全体として子ども・青少年の顕著なスポーツ離れは起きていないと言えます」

実施している運動・スポーツの中身を見ると、「野球やサッカーなどの競技系が減っていて、ジョギングや筋トレなどのエクササイズ系が増えている」と鈴木氏は話す。

運動部活動への加入率も変化しており、2015年からの年次推移を見ると、中学期・高校期の男女ともに減少傾向にある。中学校期男子は2021年まで70%台だったが、2023年には64.1%に低下、中学校期女子は49.8%と50%を切った。高校期男子は2023年に52.1%まで減り、高校期女子は34.4%と低い加入率となった。鈴木氏は、次のように分析する。

「少子化に伴い、野球やサッカーなど人数が多い種目は部活が成り立たない地域も増えています。そうした受け皿の減少のほか、部活動の強制加入が減っていること、部活動ではなく外部のクラブチームに入る子が増えたことなども加入率に影響していると思います。また、2019年に理想の部活動について調査したところ、一番多かった回答が『体を動かすことを楽しむ』(47.7%)、次いで『自分のペースで活動できる』(35.6%)でした。勝ち負けにこだわる子は15%程度。本当は楽しくスポーツをやりたいけれど、勝利至上主義の方針で活動している運動部もあるため、自身の考え方が合わないと感じて加入しない子も多いのではないでしょうか」

「土日の部活動」は減らしたいと思う中高生たち

今回の調査では、部活動の実際の活動状況(以下、実状)と本人の希望も聞いている。まず中学校では、「平日はおおむね希望どおりに活動できている」(鈴木氏)ようだが、土日の活動状況は、実状も希望も「1日」の割合が最も高く、70%を超えた。実状と希望の差を見ると、「0日」は希望が7.2ポイント高く、「2日」は希望が7.9ポイント低い。今より土日の活動日数を減らしたいと考えている中学生が一定数いることがわかる。

運動部活動の実際の活動状況と本人の希望(学校期別)

高校では、週当たりの活動日数は「5日」が実状(38.5%)と希望(35.6%)ともに最も高かった。また実状と希望との差を見ると、「6日」は実状よりも希望が5.3ポイント、「7日」は5.5ポイント低かった。一方、「3日」と「4日」はいずれも希望が実状を上回り、高校の週当たりの活動日数は実状が希望よりも多い傾向が示された。

土日の活動状況も、中学校と同様に「1日」の割合が実状と希望ともに最も高い。また、「2日」の割合は実状より希望が17.4ポイント低く、「0日」「1日」は実状よりも希望が5ポイント以上高い。高校生の土日の活動日数は、実状と希望に大きな乖離があるようだ。

「中・高生ともに土日は活動日数を減らしたい生徒が一定数いるということです。活動時間についても、中学校期・高校期ともに土日の活動時間は希望より長く、高校期は平日も希望より長いと感じている傾向が確認できました。『希望より長い』と感じている生徒は『勉強との両立ができない』『自由時間が少ない』との回答が多い傾向が確認されました。放課後の勉強や友達との交流、アルバイトに時間を割きたいけれど、部活動が長時間あるからできないと感じているのでしょう。今の子どもたちはスマホを持っていることもあり、さまざまな情報に触れる機会が多く、興味関心の対象の幅が広がっていることも大きいと思います」

活動日数・時間の削減や、選択肢の提示が必要

では本来、子どもが健康であるためには、どのくらいの頻度や強度、時間での運動・スポーツが望ましいのか。スポーツ庁では部活動ガイドラインで週2日以上の休養日(平日1日、週末1日)設定を推奨しているが、「これは海外のスポーツ医・科学関係機関の提言を参考にしているため、国内の中高生にとって適切な頻度かは本人の意向も踏まえて検証の必要があります」と鈴木氏は言い、こう続ける。

「今回の調査では、高頻度かつ高強度で部活動を行う青少年は健康状態もメンタルヘルスも良好だという結果が出ましたが、だからといって全員に高頻度・高強度での運動が推奨されるものではありません。重要なのは、個人の体力や志向に合った運動や身体活動を行うこと。健康増進を目指すなら、厚生労働省が示す『1週間を通じて、1日平均60分以上』という基準が指標になるでしょう。月曜日に120分身体を動かして火曜日は休み、それ以外の曜日は60分ずつやるなど強弱をつけても大丈夫です。強度については何もしないより少しでも身体活動を行うことが推奨されています。ただ、上達を望むなら、専門的な練習やある程度の時間を取る必要があります」

部活動の方針によって活動内容は変わってくるが、子どもたちの健康を守るために、こうした指標は参考にしたい。

現在、部活動の地域移行が推進されている。今回の調査によると、この動きを知っている保護者は全体の3割程度、当事者である中学生の保護者で4割程度だったという。「この数字が少ないのか多いのかの判断は難しいところですが、地域移行の課題はある程度整理され、とくに今年に入って取り組みが進んでいる地域は増えていると感じます」と鈴木氏は話す。

しかし、地域移行は、これまで運営主体などの受け皿の問題、指導者の問題、財源や施設の問題などの枠組み整備に関する内容が議論の中心となっており、「子どもたちの意見を聞くことができていない自治体が多い」と鈴木氏は指摘する。そのため、今後は子どもたちの部活動に対する意識やニーズを踏まえた取り組みが求められると、鈴木氏は強調する。

「今回の調査結果で示された子どものニーズを考慮すると、休日の活動日数や時間を減らす必要はあるでしょう。兼部や文化部との掛け持ちも可能にするなど、選択肢を提示してあげることも大切ではないでしょうか。学校の先生方にも、部活動の活動日数や時間、今の指導内容が本当に適切なのか、改めて子どもたちの意見を聞いたうえで見直しを図っていただけたらと思います」

無理をして部活動の顧問を引き受けている教員も多いと聞く。とくに活動日数や時間の削減は教員の働き方改革にもつながる部分であり、子どもの声と一致するならばなおのことすぐにでも見直しが必要だろう。

重要なのは「大人を含めた地域スポーツ」という視点

都内在住の小学6年生の男児は最近、友達同士で「中学生になったらどの部活動に入るか」が話題に上るという。しかし、希望のスポーツが地元の公立中学校の運動部にないという不満がよく聞かれ、自身も「土日は趣味の時間に充て、平日は運動部と文化部を兼部したい。でも、活動時間が長く指導が厳しい運動部ばかりのようで、選ぶのが難しい」と話す。

鈴木氏が指摘するように、選択肢の少なさが運動の継続・実施のネックになっているようだ。多様なニーズに応えるべく、最近では勝ち負けにこだわらずほかの活動と両立しやすい「ゆる部活」をつくる学校もあるが、そのような従来の枠にとらわれない見直しも柔軟に行われるべきだろう。

しかし今後、部活動そのものが、少子化に伴いさらに減少していくことが予想される。将来的に子どもの運動・スポーツ環境を確保するために必要なことについて、鈴木氏はこう語る。

「部活動に限定した捉え方をするのではなく、大人も含めた地域スポーツとしてどのように考えていくかという視点が重要になってくるでしょう。例えば、総合型スポーツクラブのあり方やスポーツ少年団の対象範囲を見直すといった議論も必要になってくると思います」

(文:國貞文隆、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:m.Tira/PIXTA)