部活動の地域移行は「学校主体型」か「外部団体受け皿型」かで異なる

――部活動の地域移行は今、どんな状況にありますか。

教職員の働き方改革や生徒数の減少を踏まえて、文科省も積極的に部活動の地域移行を推し進めようとしています。しかし、地域によっては受け皿団体がなかなか見つからず、現実的には地域移行がスムーズに進んでいない状況にあります。学校からすると、安心して任せられる団体にお願いしたいという意向もあり、真っ先に顔の見える存在として保護者が挙がりますが、実際には共働き家庭も増えている現状にあり、部活動の運営自体を引き受けるには難しい面があります。地域移行をどうやって前進させればいいのか、多くの地域で悩んでいるのが現状だと思います。

――そうした中で、外部ボランティアの法的課題の議論は進んでいるのでしょうか。

今は地域移行を模索している段階であり、外部ボランティアの責任を議論する以前に、地域移行によって法的な状況がどのように変わるのか十分に周知されているとはいえないように思います。そのため、私は著書で法的な違いの整理を提起することにしたのです。というのも、弁護士として子どもに関する事件も多く扱ってきたことに加え、私に中学生と小学生の子どもがいることもあり、実際に地域移行の難しさを見聞きした経験があります。教職員の負担を軽減し、部活動を持続可能なものにし、地域移行を前に進めるためにも、法的な問題をまず整理しなければならないと考えました。

――部活動の地域移行では、学校主体型(外部人材取込型)と外部団体受け皿型の2種類があります。どんな違いがあるのでしょう。

学校主体型は、従来どおり学校長の管理下で部活動を運営しながらも、外部の人材にも部活動の指導に協力してもらうかたちをとります。外部の人材という意味では、2017年には学校教育法施行規則が改正され、部活動指導員という職員が制度化されました。期間に定めのある非正規の公務員である会計年度任用職員として任用される例が多いようですが、顧問として指導・試合への引率等を行うことも想定されており、教職員の負担を減らすという狙いがあります。

一方で、外部団体受け皿型は、部活動の運営自体を学校外のスポーツクラブや保護者団体など民間団体に任せるもので、政府はこちらを積極的に進めたいと考えている様子がうかがえます。

――2つの形態に法的な違いはありますか。

まったく違うと言えます。学校主体型であれば、文科省が所管する独立行政法人日本スポーツ振興センターが提供している災害共済制度の適用があり、部活動でケガをした場合には、治療費等の災害共済給付を受けることが可能です。しかし、外部団体受け皿型では、その適用がありません。ですから、外部の受け皿団体が傷害保険に入っているかどうかがまず問題となります。

また、これまで学校の部活動においてはたくさんの事故があり、多くの損害賠償請求訴訟も起こされてきましたが、公立学校の場合は国家賠償法の考え方が適用されることにより、教職員個人に不注意があって生徒・児童に負傷等が生じた場合であっても、生徒・児童といった被害者との関係で損害賠償責任を直接的に負うことはありません。その代わり、学校の設置者である自治体が責任を負うことになりますが、部活動指導員を含む教職員個人は、損害賠償責任を問われなかったものです。

しかし、公立学校の教職員が、部活動の受け皿団体となった外部団体の指導者として関わる場合は、公務員として関わるわけではないので、教職員個人も被害者との関係で直接的な責任を問われる可能性があります。外部団体受け皿型では、指導者個人も被害者との関係で直接的な責任を負いますし、その団体自体も使用者責任を負います。なお、私立学校の場合は国家賠償法の適用がないため、学校主体型であっても、落ち度のあった教職員個人が損害賠償責任を負う可能性があります。

このように、特に公立学校の先生は、地域移行後にどのような形で部活動に関わるかによって、自身の法的な責任が変わりますので、十分留意する必要があります。

素人の保護者や地域住民も、法的責任を負う可能性はある

――では、外部ボランティアについてはどうでしょうか。

学校主体型であろうが外部団体受け皿型であろうが、外部ボランティアであっても、一定の仕事を引き受け、その仕事に落ち度が認められれば(注意義務違反があれば)、法的責任を負う可能性があります。無償のボランティアであるからといって、法的な責任自体が免除されることにはなりません。外部ボランティアといっても、日々の練習を指導する指導者として関わるのか、単発的な見守りボランティアとして関わるのかによっても、法的な責任に違いがあるといえます。

例えば、顧問となる教員が不在の際に、単発的に生徒・児童の見守りを行うことが求められる外部ボランティアについていえば、教職員に求められる注意義務と、外部ボランティアに求められる注意義務は異なると考えられるため、法的責任の範囲も異なってくると思います。

――外部団体受け皿型で、素人の保護者や地域住民が生徒・児童の見守りのボランティアをする際に賠償責任を負う範囲を教えてください。どの程度の見落としや不注意に責任を負うことになるのでしょうか。

外部ボランティアでも、「注意できたのに注意しなかった」のであれば、法的責任を負う可能性があります。「まさに危険な状態」を目撃したときには注意する義務があるからです。例えば、子どもがサッカーゴールにぶら下がっていて、今まさにゴールが倒れそうなときなどは、子どもに注意して制止させる義務があります。素人の見守り役であっても、生徒・児童の見守りを引き受けている以上、そういった危険な行為について制止しなければ、注意義務違反があり、責任を負う可能性があるということです。

――部活動前後の時間、例えば往路帰路での事故や、活動前に子どもたち同士でふざけていてケガをした場合などについて、外部ボランティアが責任を負う可能性はありますか。

どのような仕事を引き受けていたのかによります。引率という仕事を引き受けていたのであれば、その過程でボランティアに落ち度があれば、責任を問われる可能性があります。「落ち度があれば責任を負う」、これが法律の世界の原則です。では、どこまで注意義務があるのか。それは、外部ボランティアが、日々の練習計画の作成を含めた指導まで求められていたのか、教員や指導者が不在のときの単なる見守りだけを求められていたのかによって異なってきます。

――天候などに起因するケガや事故について、単なる見守りボランティアが責任を負う可能性はあるのでしょうか。

この判断は難しいですね。見守りボランティアの責任が問われた裁判例は把握していないです。サッカー部の監督であった教職員について、サッカーの試合中に落雷により生徒が負傷した事故について、試合を中止して避難させるべき義務があるとした判例があります。

見守り役の外部ボランティアには、練習中止の判断まで求められるわけでは通常ないように思います。しかし、見守りボランティアに求められている役目というのは、教員や指導者が不在であることを前提として「素人の目から見たとしても、生徒・児童に危険がある状況にあれば、それを避ける役目」を果たすことですよね。そうだとすると、天候の状況から、落雷の危険があると明らかに判断できる状況であれば、生徒・児童の生命が第一ですから、練習を中止させて、安全な場所に避難させる義務があったと認められる可能性もあると思います。

加入中の火災保険や自動車保険に「個人賠償責任保険」はあるか

――では、見守りボランティアをする場合、留意すべき点はどこにあるのでしょうか。また、賠償責任保険への加入など、事前事後にできる対策などがあれば教えてください。

外部ボランティアであっても、危険を予見できるのであれば、抑止したり、危険を避けたりする義務があります。万が一事故が発生し、損害賠償責任が求められることを念頭に置いた場合は、保険に入っているかどうかは重要になります。実は、火災保険や自動車保険などには、個人賠償責任保険や個人賠償責任特約というものが付帯されていることがあります。

これは、日常生活における事故について法律上の賠償責任を負うときに保険金が支払われる商品ですが、保護者が行うような単発的な見守りボランティアであれば、個人賠償責任保険の適用がある可能性があります。まずは、ご自身が加入されている保険をしっかり調べてみてはいかがでしょうか。

他方で、見守りボランティアではなく、指導者として部活動の指導に日常的に関わるような場合には、日常生活の事故を念頭に置いた個人賠償責任保険では対応できない可能性もあると思います。

――担当者の病欠などで、代理としてやむなくボランティアをするケースや、誰かに無理を言ってボランティアを依頼するケースもあると思います。少しでも多くの担い手を確保するために、個人が負う責任範囲を最小にすることはできるのでしょうか。

結論から言えば、法的な責任を軽くすることは難しいです。参加する生徒・児童の保護者に「事故があっても、一切の損害賠償責任を追及しません」などと一筆書かせたとしても、このような合意は無効であると考えられますので、そうした対応で責任を軽減することはできません。単発の外部ボランティアであっても責任を負うというのが基本的な考え方です。

有名な裁判例として、子ども会のハイキングにおいて小学生が川遊びの最中に溺死してしまった事故がありましたが、ボランティアで参加した引率者について損害賠償責任が認められたものがあります。ただし、最終的には過失相殺(落ち度の割合を考慮して損害額を調整するルール)によって、損害のすべてを賠償するのではなく、一部の賠償を求められましたが、責任自体がなくなるわけではありません。

地域移行は「学校主体型」がスムーズ、保護者も部活動に参画を

――外部ボランティアでも法的にはノーリスクであるわけではないということですね。

法的責任について知れば知るほど、部活動の地域移行に関わりたくないと思う方も出てくるかもしれません。教職員の人手不足の中、文科省や教育委員会としては部活動を学校の外に出したいのだと思います。その試み自体は、決して間違っていないと思いますが、保護者の目線からすると、学校主体型、すなわち、学校が主体となり部活動を継続しつつ、多くの部活動指導員を外部から任用して外部の人材を取り込むという方策の方が、教職員の負担軽減と安心安全な運営が両立すると受け止められる可能性もあるように思います。

――保護者は部活動の地域移行についてどう対処していけばいいのでしょうか。

自分の子どもが参加する部活動が、学校主体型と外部団体受け皿型のどちらなのかをまず認識することです。外部団体受け皿型であれば、その団体が傷害保険や賠償責任保険といった必要な保険に入っているのか、その団体や指導者は信頼できるのかを見極める必要があります。

――外部団体受け皿型の部活動が増えるにあたって、改善への提案やご意見をお持ちであればお聞かせください。

法令の改正が必要になりハードルが高いところですが、外部団体受け皿型で部活動を運営する場合であっても、単なる民間のスポーツ教室とは異なり「学校と連携しながら部活動を担っている」という公共性に着目して、災害共済制度を適用させるなどの対応が考えられます。災害共済制度の適用があれば、少なくとも、受け皿団体において独自に傷害保険に加入する負担がなくなると思います。部活動の地域移行を本気で進めるなら、国においてもそういった負担軽減策も検討していただけるとありがたいように思います。

――最後に読者にメッセージをお願いします。

子どもにとって部活動は意義のあるものですし、一部の子どもにとっては、教室とは異なる居場所になっている現実もあります。昨今は、育った家庭によって子どもたちの体験に格差があるとの指摘もされており、そのような観点からも、部活動はさまざまなスポーツ・文化活動を行う機会を子どもたちに提供する重要な取り組みだと感じています。

だからこそ保護者も、法的な整理を理解した上で、敬遠するのではなく、みんなで知恵を絞って、部活動を持続可能なものにしていかなくてはいけないと思うのです。部活動を外部団体が担うとなった場合でも、会計処理や大会申請書類の作成などの事務仕事もたくさんあり、事務作業であれば協力できるという保護者もいると思います。

時には、部活動で発生したいじめなどの課題にも対応しなくてはならない場面もあるかもしれませんし、さまざまな不安や負担があるとは思いますが、だからと言って、「では、部活動の地域移行から目を背けましょう」とはなってほしくはないです。逆にいうと、これまで、こういったリスクと負担のある活動をすべて学校の教職員だけが担ってきたわけです。今後は、学校だけでなく、保護者も汗をかいて、学校主体型にしろ外部団体受け皿型にしろ、部活動に関わっていかなくてはいけない場面が出てくるのではないでしょうか。日本の部活動は今、まさに瀬戸際にあると思います。

山本 翔(やまもと・しょう)

2008年12月に弁護士登録。 弁護士法人大江橋法律事務所東京事務所に入所。子どもの権利に関する委員会(第二東京弁護士会)の委員や、一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻の非常勤講師(現代取引法)としても活動。著書として、『部活動の地域移行に伴う法律相談』(日本法令、2024年)、『民事執行入門』(金融財政事情研究会、2022年)など

 

(文:國貞文隆、編集部 田堂友香子、注記のない写真:Sunrising / PIXTA)