部活動指導員と教員が協働して運営するモデルケースを

前編の中で、上髙原氏が外部指導員から教員を目指した理由の1つとして「技術的な指導だけでなく、学校の授業での様子など生活面も含めて生徒と向き合い、信頼関係を築きたい」という話があった。

教員となった現在は、自身が顧問を務める吹奏楽部にも、部活動指導員の方に入ってもらっているという。どのような役割分担・スタンスで協働しているのか。

「部活動指導員の方とは、お互いの教育観などを話し合って観係性を築いています。一般的に外部の方にお願いするのは『技術的な指導のみ』というケースが多いですが、生徒の心のフォローやいわゆる生活指導の部分も含めて見ていただいています」

上髙原拓也(かみたかはら・たくや)
海老名市立海老名中学校 教諭

教員免許を持ったベテランの方、という背景や信頼関係もあるのだろうが、上髙原氏が外部指導員時代に担えなかった役割も含めて、現在の部活動指導員の方にはお願いができているという。

「その先生も高校などいろんなところで指導されていて、曲の作りや全体を見るアドバイザーの役割で入ることもあれば、顧問の先生の経験が少ないケースなどは生徒指導も含めて行うなど、指導先に合わせて役割・キャラクターなどを使い分けていらっしゃるようです。

これは教員にはないメリットですが、部活動指導員は同時期にさまざまな地域の学校に出入りし、さまざまな年代の生徒や先生との関わりが持てるんですね。ですから、『ほかの学校ではこんな指導・運営をしていますよ』『〇〇先生に話を聞いてみてはどうですか』など、俯瞰的な視点でのアドバイスもしてくださいます」

授業や事務も忙しい中で奮闘している若手の先生の負担を減らし、子どもたちに成長の場を残していくためにも、「部活動指導員の方と共同して運営するモデルケースを作れたら」と話す上髙原氏。

とはいえ、上髙原氏が外部指導を行っていた当時の報酬は1校当たり「月収2万」(前編参照)。今も変わっていなければ、必要な人材を確保するのは到底現実的ではない。

「自身の頃とは随分変わったと思います。自治体ごとに違いますが、現在海老名市で募集している部活動指導員の報酬は1校につき年間万最大70万~80万程度。ただ、それだけで生活するのは難しいかもしれません。現在外部指導で来てくださっている方は、海老名中だけでなくさまざまなバンドを指導されていて、チューバ奏者としてフリーランスで活動もされています」 

※海老名市の教育部教育支援課では部活動指導員を通年募集している。令和6年3月時点で時給1362円

地域移行の過渡期ならではの問題とは?

海老名中学校吹奏楽部の例をとると、上髙原氏が自身の部活動指導員時代に感じた課題を解決する形で、部活動指導員との協働が実現している。また海老名市教育委員会では、予算取りも含めて、部活動指導員の枠を拡充する方向で動いているようだ。

一方、地域移行も踏まえた取り組みにおいては、課題も噴出している。部活動指導員が部活動の第一顧問になるというケースだ。

「問題になったのは、部活動指導員が第一顧問になったところに、その部活の指導経験がある教員の異動があった場合、優先はどちらになるのかという話。部活動指導員の方からすれば、長期的にコミットする覚悟で生徒と向き合っているのに、人事異動で学校の先生が来て契約を切られるならば、ただ教員の穴埋めをするだけの存在に感じられてしまうと」

自身も部活動指導員を経験しているからこそ、その立場ならではの焦燥感や憤りを自分ごととして理解できるのだろう。一方で、部活動指導がきっかけとなり教員を目指したからこそ、教員の立場で、部活動から切り離されてしまう無念も手に取るようにわかる。

「これまで熱心に指導してきて実績もある中で、異動したらお払い箱で指導できないとなれば、モチベーションが下がってしまう方もいるでしょう」

部活動指導に適正のある教員や指導員が1校に偏ってしまえば、逆に市内のその他の学校で、指導教員の人手不足や、教員が興味・適正のない部活動にあてがわれるなどの問題も起こるだろう。

また、教員が部活動にいっさい関わらずに外部指導員が顧問となるケースでは、子どもについての背景知識が分断されてしまう可能性もあるという。

「部活動において、生徒はクラスで見せる顔とはまた違うアイデンティティを持っていたりします。教室と部活、それぞれの姿をしっかり見てくれる人がいるからこそ、安心感を抱ける側面もある。外部指導員の方は基本的に顧問以外の学校職員とのコミュニケーションが発生しないため、部活以外の場面で生徒の置かれた状況を把握できません。また教員の方も、部活動での様子を把握できなくなれば、同様に生徒の背景をまるごと理解することが難しくなります」

部活練習の様子。リーダーシップを含め、授業中とは違う一面も垣間見える

市全体で部活動重点校または地域クラブ等を設置し、指導したい教員や外部指導員がそこに集まるという形を取れば、異動による担い手不足や重複をなくし、関係者が協働して教えていくことができるのではないだろうか。

「まさにそうした部分について、私も委員として入っている『新たな部活動の在り⽅検討委員会』で協議しているところです。海老名市内には6校(吹奏楽部はうち5校)の中学校がありますが、例えば吹奏楽であれば、北部と南部で拠点校を2校作り、生徒や教員・外部指導員はそこに集まって活動する形などが想定されます」

※海老名市では令和6年に「新たな部活動の在り方検討委員会」が設置された

学校単位ではなく、市全体で俯瞰してみることのできる人材についても、市の教育委員会で採用が進んでいるという。

「音楽教諭を退職後、社会教育指導員として市内の吹奏楽部を包括的にサポートしてくださっている方がいます。市全体のイベントの運営などで、中核に入って進めてくださっていて、若い先生の負担軽減にもなっています。全体を把握されている方がいるのは、今後の部活動の再改編においても心強いと思います」

※海老名市教育委員会の所属。運動部にも同様の役割の人材が採用されている

兼職兼業問題が教員の行く手をはばむ…?今後の部活動のゆくえ

海老名市では、上記のような拠点校を設ける取り組みなどから、まずは地域と連携し、その中でゆくゆくは地域移行ができる形を模索。そこには教員も関われるようにと考えているようだ。

ただし、地域移行が進み、教員が外部で設立されたクラブチームの指導員となる場合、兼職兼業の許可を得る必要がある。

「他の市の動向を見ていると、外部団体ができても、教員に兼職兼業の許可が下りないケースがあるようで……」

教員の兼職兼業において大きな留意点となるのが労働時間だ。兼職兼業をする場合は、学校で教員として業務を行っている時間と、休日に地域の受け皿団体で指導者として部活動を教えた時間を通算して、月100時間未満、複数月平均80時間以内に収めなければいけない(文科省「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」を受けた公立学校の教師等の兼職兼業の取扱い等について(通知)」〈2021年2月〉)。しかし、部活動以外の授業や事務、会議等に費やす時間だけでも膨大になっているのが現実だ。

一方、上髙原氏が所属する「新たな部活動の在り方検討委員会」の教職員への調査では、「兼職兼業の制度が確立された場合、顧問として部活動に関わりたいかどうか」という問いに対し、「引き受けてもよい」の回答ボリュームが多く、その中でも「兼職兼業の条件次第では顧問を引き受けてもよい」と答えた人が27.7%に上る。

「委員会では、例えば手当が年間100万円程度支給されれば様相は変わってくるだろうという話になりました。部活動を通して子どもと触れ合うのは楽しいですし、子どもの成長に部活動が寄与していることも、見ていて理解している先生が多いですから」

現時点での部活動指導における手当はどうなっているのか。

「私がもらっている部活動における特勤手当は年間約30万円弱。休日の活動も含めて平均的な活動量だと、月2万円程度です。ただし、夏休みは夏季休業と代休を取ることが定められているため、部活動指導をしても手当はつきません」

※2023年6月に閣議決定された「教育振興基本計画」で支給が定められた「教員特殊業務手当」のこと。修学旅行等の指導業務や対外運動競技等の引率指導業務、部活動の指導業務等において、一定の手当が支払われることとなっている。

上髙原氏自身は、部活動も含めた子どもの全人格に向き合い、成長を見守る部分にやりがいを感じている。卒業後、「よく顔を見せに来てくれるのは部活動の生徒」であるとも話す。

「たった3年間ですが、部活動での関わりで、人生の中での強い接点ができていると思います。中学校での経験がどう生きて、どんな大人になっていくか。子どもたちのその先を知れることが、いちばんのやりがいです」

部活動指導が「やりがい搾取」と言われる風潮もある中、「学校から部活動を切り離し、すべてを民間に委託する」方向で動いている自治体も少なくない。ただし、本業そのものの負荷を見直さず、教員の兼職兼業は認められないからと部活動をすべて民間に任せれば、モチベーションを削がれる教員もいる。

多くの地域・自治体が、部活動の地域移行の問題に対して暗中模索を続けている。そんな中、「まずは地域連携から」と地域移行を見据える海老名市。子どもたちをはじめ、教員も外部指導員も取りこぼそうとしない、ゆるやかな改革姿勢に期待したい。

(企画・文:吉田明日香、写真:すべて編集部撮影)