「商品数を3分の1に減らした」銀座伊東屋のその後 「楽しめる文房具屋」のためにやってきたこと

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「15万点もあった店頭在庫をほぼ3分の1に減らしたのです」(伊藤さん)。3分の1に減らすとはただ事ではない。基準はどこに置いたのか――。

「使い続けられるかどうかは、慎重に吟味したことの1つです」と伊藤さん。大量生産・大量消費という文脈に乗せ、微細な差別化を競った新商品を回転させていく仕組みは、時代の文脈とズレてきている。それより「気に入ったもの、センスのいいものを長く大切に使い続けるという価値観を伝えていきたいと考えたのです」。 

自分にとって本当に魅力的なものは、年月を重ねるほど愛着が湧くし、壊れても直して使い続けたいと思うものだ。「時代で変わっていくものでなく、時代をつないでいくものという価値観を重視したのです」という伊藤さんの言葉には、確かなリアリティが宿っていた。

“らしさ”を体現する店の存在

2015年に建て替えられた伊東屋の店舗は、地下1階から地上12階にわたる細長い建物。各フロアは決して広くないが、ゆったりした居心地のよさが漂っている。窓から差し込む光の明るさ、インテリアに使われている素材のあたたかさ、什器のレイアウトの緻密さ、そしてもちろん、品揃えの豊かさや見せ方の工夫など、人の過ごし方に目を向けた店作りにしている。

随所で目にする店員とお客とのやりとりからも、「人」を中心に置いた商いを営んでいる姿勢が見て取れる。「お客様の豊かな体験を提供することを大事にしました」という伊藤さんの言葉が実践されているのだ。

一方、伊東屋オリジナルの商品も充実させている。さまざまな筆記具をはじめ、手帳やカレンダー、革小物まで揃っている。シンプルで上質でありながら、明るく楽しい雰囲気のデザインの商品が揃っていて、ここでも“らしさ”は発揮されている。

伊東屋オリジナルのボールペンとペンケース(撮影:今井 康一)

その他、1階には、オリジナルのドリンクスタンドが設けてあるが、お客はここでオーダーしたものを飲みながら、店内をめぐってもいいという。

伊東屋銀座は、過ごす時間と空間の豊かさを提供する『伊東屋らしさ』を体現しているのだ。ブランドを象徴するリアルな場があることが、お客にとっても社員にとっても有用に働いている。

銀座店が備えているこの世界観は、他店舗にもっと盛り込まれていったらいい――そんな欲張りな思いを抱いてしまった。

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