新幹線は、海外からどう見られているのか 日本初開催の「高速鉄道会議」で語られたこと

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もちろん、会場が東京だったこともあり、日本の新幹線が注目される機会になったのは確かだ。それゆえ、初日のオープニングセレモニーでは、安倍晋三首相や太田昭宏国土交通相が日本の新幹線の優位性をアピールしたし、展示会には多くの日本企業が出展した。

しかし、だからと言って日本勢が新幹線の売り込みに躍起になれば、完全に浮く。そのことは、前述した雰囲気からもおわかりいただけるだろう。

「UIC世界高速鉄道会議」は、世界中の鉄道の政策や技術の専門家が一同に集まる国際会議だ。1992年からおおむね3年ごとに都市を変えて開催されてきたが、日本での開催は今回が初めてだ。

今回の会期は4日間で、前の3日間はセッションと展示会が行われ、報道陣に公開された。最終日はテクニカルビジットと称する非公開の見学会があり、JR東日本の新幹線列車の乗車や車両基地などの施設の見学ができるコースが設定された。

セッションと展示会の会場となったのは、丸の内のビル街にある東京国際フォーラム。真横の高架橋に新幹線や山手線などの電車が、数分間隔で頻繁に行き交うという、世界的に珍しい光景が見られるロケーションだ。UICの発表によれば、初日に40カ国から1200人の参加者が集まったという。

では、なぜこのような国際会議が行われたのか。それは、さまざまな国が集い、互いに知見を共有し、最善の策を探る場を提供するためだ。

解決法のない厳しい競争にさらされるフランス

高速鉄道の状況は国ごとに違う。日本のように早期に導入した国もあれば、モロッコのように建設に着手したばかりの国や、ラオスのようにこれから導入しようとしている国もある。つまり、検討や導入の段階が国ごとに異なるのだ。

しかし、それぞれの国が、独力で各段階に対応するのは難しい場合がある。高速鉄道がない国にはノウハウがないし、高速鉄道がある国もそれぞれ課題を抱えている。ヨーロッパでは、国境を越えた直通運転を実現するため、国同士の調整も必要だ。そこで、UICが主導して、高速鉄道の国際会議が行われ、各国の知見を共有する機会が設けられたのだ。

今回の会議では、35のセッションと2つのラウンドテーブルで発表や議論が行われた。主なテーマは、前半が「これまでの50年」で、後半が「これからの50年」だ。セッションでは範囲を絞ったテーマを扱い、ラウンドテーブルでは2つのメインテーマのまとめが行われた。

これらを傍聴して印象に残ったのは、ヨーロッパの高速鉄道における状況の厳しさだ。ヨーロッパの高速鉄道では、イギリスでの新線開業による利用者増加や、イタリアでの世界最速を目指す営業列車の登場など、明るい話題がある。鉄道の高速化検討では、日本よりもドイツやフランスなどが先行した歴史があり、世界の高速鉄道の潮流ではヨーロッパが事実上の中心だ。しかし、全体的にはほかの交通機関との厳しい競争にさらされている。とくにその影響が深刻なのが、高速鉄道をリードしてきたフランスだ。

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