これに加えて、組織についても、歴史を経て「完成度」の上がった下流の段階に行くほど、つまり特定の問題解決に適した組織になればなるほど、以下のような価値観の変化が不可逆的に広まっていくからです。
たとえば、
大きくなった組織を維持していくためには、実はこのような価値観が「必要悪」になっていきます。人間は本能的に保守的なものですから、変化に抵抗し、組織としての完成度を維持するためにリスクをつぶすことに注力し、各個人も保守的な人が組織の要職を占めていく……。
成熟した組織のこのような価値観に先の「専門家」の思考回路が重なっていけば、「できない理由」が一方的に増殖するのは、むしろ必然のことと言えます。
イノベーションのための「無知の力」
ある程度確立した分野、業界、あるいは既存の製品の市場成長を実現するためのオペレーション型の組織においては、専門知識や専門家は不可欠な存在です。ところが一方で、世の中を変える(とまではいかなくても、これまでの世界に新風を巻き起こす)のは、素人や異端児と呼ばれるような、その分野や業界の常識に染まっていない人たちです。
したがって、新しい企画やアイデアを提案する初期段階にあっては、「若くて経験がないので難しい」とか、「専門家が無理だと言っている」とかいうようなことは、あえて無視してみることも必要です。以前はそれができなかった理由があったとしても、今は状況が変わっているというのはよくある話です。
アリにとっては当然の「知識は力である」という価値観は、キリギリスにとってはむしろ逆で「無知こそ力である」という価値観になります。キリギリスは「無知の力」を生かして「できない理由」を封じ込めることができるのです。
アリの思考回路というのは、「80点(以上)の選択肢を出せないなら何もしないほうがまし」となっています。だから、キリギリスが出した「20点」の選択肢に、文句をつけたくて仕方がないのです。
これに対抗するには、やはり「代案を要求する」のが常套手段です。80点のものにはケチをつけられるアリも、自らのアイデアを出そうとするとキリギリスの20点も上回れないことに、このときにようやく気づくでしょう(それでもさらに「捨てぜりふ」が出てくるようなら、あとは無視して20点の案の点数を少しでも向上させるように先に進めるしかありません)。
逆に考えれば新しい企画やアイデアの提案に肉付けをし、「80点以上の精度に上げていく」段階においては、さまざまな領域の専門家の意見を聞くことが重要になるということです。できない理由(以前はできなかった理由)を理解し、その要因を潰しておくことは、実行に当たって必須になるからです。
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