日本で「夫婦別姓は他人事」と考える人の大問題 「虎に翼」が問う法律とは誰のものなのか

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選択的夫婦別姓制度が導入されたら、神保の息子は夫婦同姓として妻の氏を選択し、寅子の娘とその夫は、別姓もしくは妻の氏を選択するかもしれない、とも読めるのだ。

法律は一部の人だけのものではない

選択的夫婦別姓制度は、家族を解体するわけでも、同姓を名乗りたい夫婦に別姓を強いるわけでもない。フルネームを自分の一部と思ってきた人たちが、結婚しようが離婚しようがアイデンティティを脅かされないため、その人が働く世界で支障をきたさないために必要な制度である。選択制なのだから、どちらの道を選ぶかは当事者が決めることができる。

『虎に翼』は、そうした法律についてわかりやすく教えてくれる。法律は、旧仮名遣いの民法改正案を読んだ寅子の母親がつぶやいたように、「自分たちが、頭がいいって自慢したい」法律家や政治家、あるいは運動家だけのものではない。

私たちを守ってくれるはずの法律が、私たちの人生を歪める場合がある。しかし、法律は時代に合わせて変えることもできる。自分の権利が何によって保障され、何によって侵されるのか。

自分の人生を、暮らしを守るために、他人の人生を損なわないために、私たちはもっと法を巡る議論に敏感になる必要があるのではないか。まずは、経団連の提言がどのような波紋を起こすのか、見守りたい。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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