勤勉が美徳の中国で「怠け者消費」が拡大する訳 家事よりも趣味や生活の質向上を重要視する人々

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次に、利便性がキーワードとなる消費の増加です。これに関しては「即時リテール」の例を紹介します。

②日常生活の利便性にかかわる分野

即時リテールとは、消費者がオンラインで注文すると、リアル店舗がその注文に応じて商品を準備し、それをデリバリー業者などのプラットフォーマーが即時配達する方法のことです。ここでいう「即時」は大体30分前後ですが、多くのプレイヤーは分刻みで動き、とにかく素早い配達を目指そうとしています。

この即時リテールは2022年から東京で本格運用に乗り出した「Yahoo!マート」の仕組みと似ています。同サービスはZHDグループのアスクルと、LINEグループの出前館が持つ配達の強みを生かしたクイックコマースで食料品や日用品などの注文から最短15分で届けるという迅速さが最大の特徴です。「Yahoo!マート」を参照すれば、中国の即時リテールは身近にある移動型コンビニのような存在と認識してもよいでしょう。

招商証券の研究レポートでは、中国における即時リテールの市場規模は2020年の1510億元から年平均成長率30%以上で増え続け、2025年に1兆元を突破すると予測されています。

政策も即時リテール市場の拡大を後押ししています。中国商務省や国家発展改革委員会など12の部門が2021年5月末に「15分便民生活サービス圏の構築の推進に関する意見」を公布しました。都市部を中心にリアル店舗のデジタルトランスフォーメーションを加速し、住民に必要なサービスが15分以内に届けられることを目標にするとしています。

事例:出前サービスを配達サービスに変身させたフードデリバリー最大手「美団」

この政策によって、コンビニによる即時リテールの提供が増えています。従来はコンビニが自力で「社区」というマンション団地への配達を行ってきましたが、第三者の配達プラットフォームとの連携によって、配達範囲の拡大と売上増を図ろうとしています。

これを受けて、フードデリバリー最大手の「美団」は自社の出前サービスを配達サービスに変身させています。美団は2022年9月から武漢で中国のコンビニ大手「美宜佳」と連携し、オンラインで24時間出前サービスを提供するようになりました。消費者は美団の配達者が30分前後で届けてくれる仕組みとなっています。コロナ禍で即時リテールに対する需要の高まりが美団の売上高増に貢献したことも明らかになっています。

ここで見てきたように、怠け者消費は効率や利便性を重要視するライフスタイルにかかわる消費です。このライフスタイルの浸透と定着に伴い、怠け者消費に対する需要はさらに高まっていくでしょう。

趙 瑋琳 伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員

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チョウ イーリン / Weilin Zhao

中国遼寧省出身。2002年に来日。2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて博士号取得。早稲田大学商学学術院総合研究所、富士通総研を経て2019年9月より現職。情報通信、デジタルイノベーションと社会・経済への影響、プラットフォーマーとテックベンチャー企業などに関する研究を行っている。論文・執筆・講演多数。著書に『BATHの企業戦略分析―バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの全容』(日経BP社)。

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