世界の建築にも影響、日本発「メタボリズム」の正体 西洋建築と日本の歴史を通して見えてくるもの

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その手による名作が悲しい最後を迎えてしまったのは残念でなりません。さらに言っておくと、彼は、もっと世界的に有名な建築も手がけています。そのビルは、プルーイット・アイゴーが解体された翌年、1973年にニューヨークで完成しました。

しかし重ね重ね残念なことに、その傑作もいまはもう地上に存在しません。2001年9月11日に発生した同時多発テロで、ハイジャックされた旅客機の突入によって倒壊した世界貿易センター(WTC)です。

あの超高層ツインタワーも、モダニズム建築史に刻まれる独創的な美しさを持っていました。一度ならず二度までも傑作が倒壊の憂き目に遭ってしまったのですから、ミノル・ヤマサキほど「悲劇の建築家」という言葉がふさわしい人はいません。

モダニズムの打開策として登場した新たな概念

一方、モダニズムが行き詰まりを迎えた時期に、日本の建築家たちが新しいムーブメントを起こして世界にインパクトを与えたこともありました。1960年に、日本が初めて「世界デザイン会議」の開催国となったときのことです。

そこで日本は、黒川紀章さんら当時の若手建築家や都市計画家たちが提唱した「メタボリズム」という概念を発表しました。思わずおなかのあたりを気にした中高年読者もいるかもしれませんが、これはべつに、ふっくらした形状の建築を始めようという話ではありません。

メタボリズムとは、「新陳代謝」のこと。社会の変化や人口の増加などに合わせて有機的に成長する都市や建築を目指す運動です。このメタボリズムを具現化した建築のひとつが、黒川紀章さんの設計による中銀カプセルタワービルでした。

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