そうした経験を踏まえて、上智大学の「知のエグゼクティブサロン」では完全な水平型のプログラムにしたわけです。そこに講師は存在せず、学者や有識者であるリソースパーソンは問題の投げかけをするだけで、その後はリソースパーソンも我々コーディネーターも学びますし、受講生という立場の参加者もビジネスの立場からアウトプットします。
お互いが違う人生を生きてきて、それぞれそれなりに何十年もやってきたのですから、何かしら相手に与えるものがあるはずなのです。それをお互いに話して、お互いに聞く。哲学的な言い方をすれば、ヘーゲルの弁証法的にお互いもう一段高いところに一緒に上りましょう……そういうコンセプトで行っています。
山口さんはいろいろなところで講師をやられていると思いますが、エグゼクティブ向けの教育についてはどのようなスタンスで臨まれていたり、どのようなプログラムを開発されたりしているのか、そのあたりを教えていただけますか。
即効性を期待しすぎる日本の人事部
山口:エグゼクティブ向け研修とリベラルアーツということで言えば、有名なのはアスペン研究所ですよね。アスペン・セミナーはとてもいい取り組みなので私自身が行きたいと思うほどですが、日本の一般的な取締役や執行役員クラスに対して、いきなり取り組ませても中途半端な形になってなかなか厳しいだろうという気はします。
特に日本の人事部は、効果を数字で見せてほしいとか、次の日からすぐに使えることを教えてほしいという傾向が強い。リベラルアーツを役員に学んでほしいということで、京都大学の中西輝政先生やAI研究者の新井紀子先生に来てもらってディスカッションを行うプログラムを組んだことがありますが、驚くことに、人事は「即役立つことが学べたか」といったアンケートをとっていました。
当たり前ですが、リベラルアーツは次の日からすぐに仕事に活かせる類いのものではありません。結局、この企業からは「参加者の評価が低いので、この1回でやめにしました」と言われ、そもそも何をしたくてリベラルアーツの研修プログラムを始めたのかと叱責した経験があります。
ですから、プログラムの中身以上にバイヤー、つまりは企業側の問題が大きいと思います。したがって、ダウンロード型、アスペンのプログラム、対話型のどれがいいかということで言えば、参加者のレベルやプログラムそのものよりも、それを差配している人事部門の思惑がすごく気になりますね。