「単なる輸送手段ではない」ローカル線の矜持 乗客1700万人!「江ノ電」の強さの秘密③

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鉄道会社の社長というのは地方では名士ですから、人脈もありますし地域の掘り起こしには最適任だと思います。地域の魅力の掘り起こしに今まで以上に力を入れていただかなくてはいけないし、もっと活躍してほしいと思います。鉄道の役割は、そういうところにこそあるのではないでしょうか。

ローカル鉄道が地方再生に果たす役割

――ローカル鉄道の存在意義はそこにあるのですね。

人によっては、これからの時代、ローカル鉄道は特にいらないのではという意見もあるようです。確かに、もし鉄道の意義が人や物の移動だけにあるのなら、そうかもしれません。

しかし、鉄道は単なる輸送手段だとは思えないのです。たとえば、鉄道の駅とは町の顔です。鉄道の駅には人々が集まり、町の中心が形づくられてきたからです。

また、鉄道は町から町へと、定期的に、安全に、確実に人を運びます。人の往来が生まれるわけですが、いってみれば、人の出入りとは、町と町とのコミュニケーションではないでしょうか。となり町の人がやって来て、自分の町のことを知る。自分が出掛けていって、となり町のことを知る。鉄道があれば、町と町とのコミュニケーションが安定的に継続することになるわけです。町の中心が形成され、町と町とのコミュニケーションが円滑になる。こうした効果は経済的に計算するのが難しいでしょう。しかし、確実に地域を元気にしていると思うのです。

――今、シャッター街化など地方の商店街の元気のなさが指摘されますが、町の再生に対する鉄道の役割は大きいわけですね。

ローカル線はことにそうです。単に人や物を輸送するだけなら、バスや自家用車、トラックで十分かもしれません。航空機なら、もっと速く輸送することも可能です。

しかし、バスなどの車や航空機では町の中心は生まれませんし、町と町の交流も促進されません。昭和の頃の活気は、全国津々浦々まで張り巡らされていたローカル線の「見えない効果」のおかげだったというのは、私のような鉄道好きの抱く、単なる思い込みなのでしょうか。

昨今の地方の元気のなさは、ローカル線がさびれていったことと無関係ではないと、私には思えてなりません。かつての風景を思い出せば、そこには失うにはもったいない美点と効能が、いくつも再発見できる気がするのです。

――自他ともに認める「鉄道屋」として、ローカル鉄道の経営に長く携わってきたご経験から、最後に何かメッセージはありますでしょうか。

ローカル鉄道の収益は、天候ひとつで大きく左右されます。ましてや、天変地異があれば死活問題となることは、あの東日本大震災でローカル線が廃線の危機に見舞われた事実を見れば明らかです。最近も、江ノ電に来る前に私が社長を務めた箱根登山鉄道が、箱根大涌谷の噴火警戒レベルが引き上がったため大きな影響を受け、現在も要警戒が続いています。

ローカル鉄道の経営は、事業環境の状況次第なのです。江ノ電も、少しばかりイメージがよく、人気があるからとうぬぼれていては、環境が変わったときに対応できません。江ノ電も含めローカル鉄道の職員は、まず自分たちの認識を変えなければならないと思うのです。

つねにお客様の立場に立ち、リピーターになっていただくにはどうすればいいのか、地元の活性化に役立つにはどうすればいいのかと、考え続けるしかないのではないでしょうか。

深谷 研二 江ノ島電鉄株式会社(江ノ電)前社長

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ふかや けんじ / Fukaya Kenji

江ノ島電鉄株式会社(江ノ電)前社長。1949年2月、東京生まれ。父は国鉄職員。1971年4月、日本大学理工学部土木工学科卒業後、小田急電鉄㈱入社。経堂保線区長、大和駅改良工事事務所長を経て、1988年工務部施設計画課長で大規模建設工事を担当。1997年運輸部長、1999年工務部長、2001年執行役員運転車両部長。2003年箱根登山鉄道㈱出向後、小田急グループ箱根再編事業を担当。2005年箱根登山鉄道㈱代表取締役社長。2008年江ノ島電鉄株式会社代表取締役社長。地方鉄道および観光事業の活性化に他社・地域と連携して取り組む。2014年同社相談役。2015年6月退任。

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