「単なる輸送手段ではない」ローカル線の矜持 乗客1700万人!「江ノ電」の強さの秘密③

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江ノ電の強さと魅力の秘密を、同社前社長の深谷研二氏が語る
テレビなどでおなじみの江ノ島電鉄(江ノ電)だが、その全線は藤沢―鎌倉間のわずか10kmにすぎない。それにもかかわらず、年間乗客は1700万人に達し、ローカル鉄道では珍しく安定的に黒字を出し続けている。江ノ電はなぜ、それだけ人々を引き付け成功を収めているのか。このたび『江ノ電 10kmの奇跡――なぜ人々を引きつけるのか?』を上梓した同社前社長の深谷研二氏に話を聞いた。

 

廃線の危機を乗り越え、ローカル鉄道の雄として異彩を放つ江ノ電(江ノ島電鉄)前社長の初著書。テレビなどでも注目度の高い江ノ電について、マネジメントの視点から初めて迫る!

――深谷さんは6月で相談役も退かれて江ノ電から離れられたわけですが、後輩たちに伝えておきたいことはありますか?

江ノ電は自らが地元の観光資源のひとつになっていると思います。しかし、あくまでも観光の主役は地元であり、江ノ電はその象徴というかランドマークのような存在であればいいのではないかと思います。

江ノ電が走っている鎌倉・藤沢地区は全体が住宅地の中にありながら観光地の空気に包まれています。さまざまな観光客誘致の努力をしていますが、基本的に昔の面影を保存することで観光地として成り立っています。

いわば、地域全体が湘南という名のテーマパークのような存在であるわけで、先ほどいったように、江ノ電はそのテーマパークを走る「おさるの電車」として、人気をいただいているわけです。

湘南と言えば……

なのに、自分たちを「ブランドなんだ」と勘違いしてしまい、古都鎌倉や景勝地江の島のイメージにあぐらをかいて、「江ノ電はこのままでいいんだ」と怠けてしまえば、いつか時流に合わなくなり、“裸の王様”となって歴史の中に埋没してしまいます。

ちょうど、かつての「おさるの電車」が現在ではほとんど見られなくなってしまったのと、同じことになってしまうでしょう。

かつてのように、廃線の危機に再び見舞われない保証はどこにもありません。江ノ電の魅力は、あくまでも地域の魅力があってこそだと、肝に銘じておいてほしいと思います。

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