日本人の食生活に入り込む「海の奴隷労働」の実態 タイの人権活動家が語る、過酷すぎる漁の現場

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――それはどういうことでしょうか。

賃金の不払いは依然としてなくなっていません。契約書では賃金として1カ月に1万2000バーツ支払うと書かれているのに、いろいろな名目でピンハネされ、実際には6000バーツしかもらえていない人もいます。

雇い主がキャッシュカードやパスポートを取り上げてしまうケースもあります。負傷や死亡した場合の補償も、必ずしもきちんと行われていません。

8カ月前にミャンマー人の漁船の乗組員を救出しました。この乗組員は2度にわたって逃亡を試みたものの失敗し、捕まってしまいました。そしてロープに縛られたことが原因で腕の傷が化膿し、腕を切断しなければならなくなりました。

『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』©Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC.

このミャンマー人のケースでは、雇い主が契約していた医療保険に上限があり、それに到達した段階で雇い主は支払いを打ち切りました。そこでやむなく、相談を受けた私たちが治療費を負担しました。

2023年12月に救出したタイ人の乗組員は、5年も働いていたのに賃金をまったく受け取っていませんでした。

私たちはこうした人たちにシェルターを提供するとともに、本人を支援して賃金の支払いや補償を求める活動をしています。

日本の消費者との関わり

――こうした「海の奴隷労働」と日本の関わりは?

日本はタイやインドネシアからたくさんの水産物を輸入しています。そのため、食を通じて関係があると言っていいと思います。

しかし日本ではこうしたIUU漁業の問題はあまり知られておらず、輸入水産物のトレーサビリティ(追跡可能性) も十分とは言えません。

――日本の水産物輸入業者や消費者に何を求めますか。

まずは東南アジアでのIUU漁業の実態を知っていただきたい。そしてトレーサビリティの重要性を認識してもらいたい。水産物を購入するとき、鮮度や価格だけでなく、漁業にたずさわっている人たちがどんな生活をしているかについても考えてほしいと思います。

そして、水産物の流通に関する日本の法律を厳格にし、違法な水産物取引の取り締まりを厳しくしていただきたい。そうした取り組みが、海の奴隷労働を根絶することにつながります。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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